5998 CSPP  since  May 2013

出力段CSPP(クロスシャントプッシュプル)アンプの第5作目です。

バラックシャーシーのまま8年もの期間が過ぎてしまいましたが、特に問題無く動作していました。 漸く予定のシャーシーに組み込みました。


コンセプト

当初のコンセプトはマッキントッシュタイプCSPPでシンプルかつ無帰還で適当なダンピングファクターを実現する回路(もちろん直結で(^^;)を目指しました が、...。

今回起用した 5998 はGTベースでSTスタイルのいわゆるG管ですが、内部に低rpの3極管を2つ封入した双3極管で電圧制御用途に開発されたレギュレーター管です。 また、管の高さを抑えGTルックにした 5998A もスペックは同等です。

6AS7G 6080 等と比べると μ = 5.5 と大きいのが特徴でレギュレーター用3極管としては割とドライブしやすい球として知られており、同等管として WE421A がありますがこちらは金田SEPP-OTL 等にも採用されています。

rpながらもμが大きく、プレート損失も15Wあり、2A3に近い使い方が可能とされてPPやシングルでの作例は結構ありますが、CSPPへの応用はおそらくお初です。

但し、ひとつ残念なことにレギュレーター管にもかかわらずH-K間耐圧が±100V と極普通でしか無いのです。

なので、この球にはなるべく高電圧をかけずに負荷インピーダンスを低めにした動作で使う方が賢明です。


回路について

最初のRev.1では初段に双3極管 5751 の差動増幅とし、その負荷を同じく 5751 に依るSRPP風の真空管抵抗として、ブートストラップによりドライブ電圧を稼いでいます。但し、所詮は3極管ですから例えμ=70の 5751 だとしても初段のゲインはその半分程度が精一杯なのでこの際ゲインは欲張らず、もちろん余裕はないので先ずはオーバーオールNFB無しでそこそこの性能を得るつもりで 試してみま した。

基本2段の直結PPとなりますが、いわゆるシングルアンプで良くあるロフチンホワイト回路を2つ重ねてPP化したと思えばどうって事の無い回路です。シングルの場合それほど直流安定度を気にする必要はありませんが、PPの場合はトランスの直流磁化を避ける為にアンバランス電流を許容範囲以内に保つ必要があ るし、なおかつ出力管の動作点も動かない方が良いのは当然です。

初段が半導体ならサーボ無しでも充分実用になりますが、初段真空管で直結PPを実用とする為にはそれなりの工夫が必要です。本機では以下の様な対策を施しています。

以上のような対策にてサーボ無しでも実用に耐える直結アンプとなっています。
(但し、試運転から48時間程度は新品真空管の初期ドリフトがあるので常に電流を監視しながら適宜調整する必要があります)

5998 2A3 に近い使い方をする例があると書きましたが、rpが 2A3 の800Ωに対して 5998 は350Ωと半分以下ですので最適負荷はもっと低いところにあると思われます。通常 2A3 はシングルで2.5KΩ、DEPPで5KΩを負荷に設定することが多いですが、5998 のVp-Ip特性から最適負荷は2KΩ近辺のようです。

CSPPではなるべく負荷線を 立てた方がよりドライブ電圧が低くなり、ドライブしやすくなるのですが、無帰還での実用DFを確保する為にRev.1Rev.2では 2A3 と同様に2.5KΩにしました が、最終的には半分の1.25KΩになるようにしています。


 Rev. 3 June 2013

折合

Rev.1の3極管1段でのドライブで足りなかったのはゲインだけで、1段増やした Rev.2 ではゲインとドライブ電圧が充分に確保出来たので、たかだか出力10W程度の本機ではブートストラップの必然性はないと言える結果でした。

従ってブートストラップをやめ、P-G帰還に変更して上側のアクティブ負荷球も 5751 からrpの低い 6201 (12AT7)に変更しました。
P-G帰還にするとドライブ電圧を圧迫して余裕が減りますが、OPT負荷インピーダンスを半分の625Ωにしてしまえばそれも帳消し、かつ実用的なダンピングファクターが得られれば出力的にも有利になるわけです。


回路図

3極管によるP-G帰還はまるで超3極管接続のように見えますが、ここでは下側ドライバーが3極管である為に電流ドライブではなく電圧ドライブであるが故に100%P-G帰還にならないので超3結の動作ではありませんし、電流ドライブのように直流的不安定にもなりません。

本機の場合は上側3極管rpと下側3極管rpの比率で信号が分圧されP-G帰還電圧として出力管のプレートからグリッドにフィードバックとなります。既に50%がKNFにより帰還されていますので、出力管にはトータルで70〜80%の局部帰還が掛かっていることになります。

本来の超3結回路でこのようなドライブ回路にしてしまうと超3結として動作しないだけでなく、2つの3極管のrpが出力管の負荷になってしまい出力が食われてしまいます。
超3結PPだとすればOPTは5KΩの負荷ですがCSPPである本機はそのまま1/4の1.25KΩになるところに16Ω端子に8Ω負荷として いるので1次インピーダンスはさらに半分の625Ω負荷になる為に例えrp数KΩの3極管に依るドライブだとしてもほぼ無視出来ることになります。

電源回路には一切の変更はありませんが、2段(Rev.1)の時点ではPSDCによりうまく電源変動補正が出来ている様に見えていたのが、スライダックで確認すると3段化と球の変更の影響から補正があまり効かなくなっていました。
そのままではマズイので、2段目定電流回路の基準電圧にLEDを入れました。
最初は3.8Vのツェナーを入れてみたところ効き過ぎた為、その半分の2V位のツェナーを探しているところにたまたまLED(緑)が目に入り採用となりました。

これで補正はバッチリ効くようになりましたが、このようなさじ加減はカットアンドトライで探るしかないです。


電源回路


諸特性

   Rev.2  Rev.3
 OPT負荷インピーダンス  1.25KΩ  625Ω
 最大出力(ノンクリップ)  10.0W  12.5W
 最大出力(5%歪み)

 -     

 13.8W    

 オープン・ゲイン  28.5dB  30.2dB
 クローズド・ゲイン

 -     

 27.0dB
 ループNFB

 -     

 3.2dB
 高域カットオフ (No-NFB)  95KHz   95KHz 
 高域カットオフ (Over All)

 -     

 135KHz 
 ダンピングファクター  5.1  5.5
 残留ノイズ  0.8mV  0.7mV

P-G帰還と3.2dBのNFBによりダンピングファクターはほんの僅か改善する程度ですが、高域カットオフはだいぶ上の方だし、この辺が妥協点のようです。

まだゲインは多めですが、これ以上帰還量を増やしたくないのでダンピングファクターはこれで必要充分です。
 


雑感

もともとマルチの中域用として考えていたアンプで、3段化によるメリット(ゲイン)に対し直結故にデメリット(直流安定度の劣化)は少々気になるところでしたが、かろうじて実用になるレベルにあるようです。

自分用なので常に自分が気にかけてさえいれば良いのですが、バラックのままで8年半も安定動作した実績が出来てしまいました。

サーボ無し直結回路は2段増幅でやめておいた方が精神衛生上も良いに違いなく、他人様に勧められる代物ではないと思っていたのが充分実用になっています。

そして予定どおりマルチの中域に使っていて狙いどおりの音質に大満足。
 



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Last update 16-Jan-2024