LUXKIT A3000 = CSPP Amplifier 〜 Modified

かつて市場に出回ったマッキントッシュタイプCSPPアンプがマッキントッシュ以外にも存在したことはあまり知られていないようです。

LUXから1975年にリリースされたKIT版のA3000(1975年2月発売、後にA3045に名称変更)を数年前に入手していたのでその性能と動作を探ってみます(完成品はMB3045 1976年7月発売)。

LUXのアンプでは他にもMQ80(1974年10月発売)がCSPPです。(もちろんKMQ80も)

さらに前の時代に開発されたMB88(1966年11月発売)がありますが、内部配線から推察するとKNFのよう です。


■ 出力管は2種類

A3000 (A3045) はその完成品版である MB3045 の名が示すとおり、出力管はLUXブランドの 8045G という3極管ですが、同時にKT-88も使えるように設計されていました。多分にあの名機マッキントッシュ MC275 を意識していたのでしょう。

残念ながらLUXブランドの 8045G は短命に終わり、そのリプレースとして一時的に GoldAeroブランドの 8045G が出現しましたが、これはユーゴスラビアのEiと言うメーカーが90年代に発表した KT-90 をソケット袴の内部で3結にしたものでした。
その特性はオリジナルと同じとはいかず、そのまま差し換えは不可能。従ってバイアス回路の電圧変更が必須だったのは言うまでもありません。

小生が入手した2台の A3000 はともに故障しており出力管は全滅、4本全てを KT-88 とほぼ同じ規格の 6550A へ換装しました。
しかし、ダメなのは出力管だけに留まらず、残念ながらドライバー管の 6240G も2本不良だったのでさらにガッカリ。


■ LUX標準回路 (UL動作)

ラックスから発表されている回路は当然ながら 8045G KT-88 の2種類ありますが、ここでは KT-88 バージョンを示します。
ラックスのカタログによると KT-88 のビーム管接続となっていますが、実際にはスクリーン電源を+Bから取っているので交流電位はカソードとプレートの中点である為に50%タップのウルトラリニア接続と等価です。

OPTとして採用された GX100-3.6 は同社の OY-36 をベースとしたものですが、なんとクオドラファイラ捲きという1次巻線が4つもあるもので、ドライバー段のブートストラップやNFにも利用されています。


■ 球の変更に伴い採用した回路 (6550A native 動作)

8045G からその役目を受け継いだGE製 6550A ではスクリーン電源を互いのプレートにたすき掛けする事により、ネイティブなビーム管動作を選んでいます。
6550A のスクリーン電圧は450VがMaximumなので50Vツェナーを入れてスクリーン電圧を下げてあります。
しかし、その他の回路定数に手を加えてはいないので出力段以外は基本的にオリジナルです。

回路図中ので色分けしたとおり3系統のNFBがかけられています。

はSP端子から初段に戻されるメジャーループのNFBで、はクオドラファイラー捲きのひとつ(FC-FD)をNF専用巻線として初段に戻し、は3段目に戻されていてこれらを合わせてMLF (Multiple Loop Feedback)と呼ばれていたようです。

これら3系統のNFBがどのように作用しているのか測定してみました。


■ 特性

LUXのオリジナルとは出力段のみ少しばかり回路が違いますが、こちらが多極出力管の本来の使い方です。

 最大出力(ノンクリップ)  67 W
 ゲイン  30 dB
 高域カットオフ (-3dB)  85 KHz
 ダンピングファクター  14.9(8Ω)
 残留ノイズ  0.7 mV

NFBのループに手を入れないノーマルの状態を手はじめに、3系統のNFBを外した特性を測ってみました。

@: ノーマル。
A: OPT2次側からのNFであるのループを外した状態。
B: のループとドライバー段へのNFであるのループを外した状態。
C: のループとのループを外した状態。
D: 全てのループを外した状態。

@ A B C D
 ゲイン  30 dB  35 dB  35 dB  50 dB  60 dB
 NF量  30 dB  25 dB  25 dB  10 dB   0 dB
 高域カットオフ  85 KHz  60 KHz   −  55 KHz   −
 ダンピングファクター  14.9  9.3   −  3.4  2.2

@のノーマル状態はかなりの低歪です。

Aでの出力端からのループを外すとゲインは5dB程上がり予想されたカーブを描きます。

AとBではのループ帰還は有り、のループの有無の違いですが、のループが有る状態でのループを外してもゲインは殆ど変わりません。
の帰還は単独だと10dB程ありますが、同じのループの中なのでのループが成立するとトータルの帰還量はに支配される様です。
BのNFB巻線から3段目に帰還しているのライン2つを外すと2Wから上で極端に歪みが増えています。

Cではの帰還を生かしたままでのループを外しました。
OPTの1次側と2次側両方からのNFBを外すと、出力段から初段へのNFBが無くなりゲインが20dBアップします。

全てのNFBを外したDの状態での周波数特性はあまり意味を持たないので計測していません。

Dで全ての帰還を外すとゲインは約1000倍(60dB)もあり、オーバーオールのNFB量が約30dBとかなりの量ですが、それでもゲインは30dBも残っています。
全ての帰還が外れた状態でのダンピングファクターは2.2と意外にも高い値を示しましたが、出力段のKNFが利いているCSPPでは多極管でも3極管DEPP並のダンピングファクターが得らています。


雑感

とりあえず特性を確認してみましたが、30年以上も前に設計されたアンプだけに当時の時代背景も考慮する必要があります。
初段と2段目は2段の差動アンプを構成していますが、上側だけ直結で下側はC結合であり、球の経時変化で上下バランスが崩れない配慮がされています。しかし、これにより低域時定数を1段増やすと言う欠点になってしまいますが、長期安定稼働を目指すメーカー製アンプとしてはやむを得ない選択ではあります。

3段目は本機の特徴的な部分ですが、高電圧をかけて出力段カソードからキックバックされる帰還電圧を跳ね返すだけのドライブ電圧を得ています。30dBもの高帰還を実現する為に約5000倍ものゲインを3段増幅で得ています。

ドライバー段はカソードフォロワーでカソード側プレート側共に出力段からブートストラップされ、強力に出力管を駆動しています。
しかも高電圧ドライブのために約500Vもの電圧が掛けられており、6240Gの耐圧がカタログ値では800Vにもかかわらず、トラブルが発生するケースが多かったようです。もともと
6240Gの生い立ちは12BH7をベースにヒータ電圧を変更して内部を高電圧に耐えるべく改良した球らしいのですが、その効果は不充分だったようです。6240G亡き後はラックスのサービスステーションで修理された際に12BH7Aに変更されているのが実態で、他に代替出来る球が無いので耐圧スペックオーバーは致し方ないところです。

当時の真空管アンプと言えば、特に出力管をスペックギリギリで使うことが当たり前で、余裕の有る設計は殆ど無かったように記憶していますが、このアンプはドライバーにMT管を使っていることが耐圧の点でそもそも無理があったのではないかと思われます。
しかし、既に世の中は半導体の時代であったにもかかわらず、日本のメーカーが新たにオーディオ用真空管を開発したと言う事実は大いに賞賛されるべきものですので、LUXとNECには最大の敬意を表します。

裸ゲインが異常とも思えるほど非常に大きい為、半導体アンプにも似てトラブルの際には恐ろしいほどのショックノイズに見舞われます。
プリント基板を採用しているのは良いのですが、初段のソケットでちょっとした接触不良があるととんでもない音量のノイズが出ます。
新品のうちにはそれほど問題にならなかったかも知れませんが、30年を過ぎたアンプの真空管ソケットには接触不良が付きまとうので考え物です。
ソケットを止めて金田アンプのように真空管のピンに直接ハンダ付けしてしまう手もありますが、そもそも過剰なゲインは拙作のスタイルとは合わないので、そのうち1段減らす改造を施して出来ればループ帰還無しで使いたいところです。

今回の実験でもOPT2次側からのNFBをかけたノーマル状態での高帰還の音質は好みに合いませんでしたが、OPT2次側からのループ帰還を外したAとCはまずまず納得出来るレベルの音質が得られました。(でもゲインは過剰デス(^^;)

 

A3000の回路はプロ?の方でもこんな風に解釈されることもあります。
マッキントッシュ回路やCSPPを理解していないと無理もありませんね。


改造案その1

各段の構成を検討してみましょう。

初段・2段目:

差動2段の構成は悪くないのだが、初段の定電流源が抵抗のみとはやや寂しいです。しかし、この構成では初段のゲインが高いのでこれは大きな問題ではありません。2段目との結合は上側が直結なのに対し下側はC結合と、2段差動としては変則的で低域時定数が存在するのは欠点、しかしこのおかげで球のバラツキと経時(経年)変化には強くなりますので、一般のユーザーが使うアンプとしては妥当な選択です。
12AX7はμは大きいがrpもそれなりに高いので高域特性はあまり望めません。ゲインを大きくとり、そのゲインをNFBに回して特性を得る設計ならではの選択だと思いますが、個人的には別の球を使いたいところです。

3段目・ドライブ段:

スタガー比を確保するために2段目とのカップリングに0.047μFと小さい容量のコンデンサが使われており、無帰還での低域特性を制限しています。そもそも電力感度の低い大出力3極管8045Gをドライブするために考えられた回路なので、高ドライブ電圧を確保するため耐圧の高い6240Gを開発していますが、6240G以外の双3極管ではGT管の6SN7GTBくらいしか使えそうな球が見つかりません。

出力段・総合:

出力段の励振はブートストラップでがんじがらめに見えていてもコモンレベルからの電圧性ドライブのためにKNFが全て打ち消されてしまう訳では無く、3段目のカソードに戻されたNFの効果もあり、DFに貢献しています。大出力3極管(8045G)をドライブするには耐圧不足の点を除けばよく考えられた素晴らしい回路だと言えます。

しかし、ループNFBは20dBもかけられており、その上でさらにゲインが30dBもあるので私の基準からすれば超ゲイン過剰です。
先ずは過剰なゲインを減らし、裸特性を整えたうえでアンプとして見合ったゲインとNFB量にしたいところ。


回路変更案

とりあえずオーバーオール帰還を廃し、4段ある増幅段数を1段減らして、裸特性を改善するために結合時定数等を修正します。

回路変更のためには一部プリント基板のパターンを切った貼ったしなければならないので、とりあえず簡単に出来る小改造として各段の電圧配分を変えないように(安直に)2段目をカソードフォロワーにしてゲインを1未満にし、3段目とのカップリングコンデンサーの容量を大きくして低域特性を改善を狙います。

前述したようにドライブ段は元々は8045Gのために必要なドライブ電圧を得るべく高電圧がかけられていますが、6550Aを使う分にはそれ程の高電圧は必要ないのでドライブ段のプレート電圧を下げても充分ドライブが可能になります。

ドライブ段へ供給する電圧を下げる為には出力段のプレートからの配線を外し、NFに使われている4番目の1次巻線(図面上右端)を利用してブートストラップを維持したままドライバーに供給します。外したドライブ段へのNFは出力段のカソードから取れば同じです。(初段へのループは外す)100V程度電圧を下げることにしてドライバー段の負担を軽減し、ついでに出力段のSGもこちら側の電源から供給することでスクリーン損失を抑えます。

出力段はビーム管Native動作を継承しました。
試しにLUXオリジナルの50%UL接続も確認してみましたが、SG電圧を下げたせいもあり、出力が4割近くも減る割にはダンピングファクターは僅か0.5しか改善しませんでしたので、KNFが利いているマッキントッシュタイプCSPPに於いて多極管のUL動作は殆どメリットが無く、 ハッキリ言って無駄です。(と言うわけでLUXのオリジナル回路ではKT88でも40W程度しか出せません)


■ 変更した回路 Rev.1 (13-Nov-09)

6550A のスクリーン電圧とカソフォロ&ドライバー段に供給される電源をNFに使われていた巻線(FC-FD)を使って一段低い電圧を供給するように変更し、スクリーン損失とドライバー管の耐圧に配慮しました。これにより 6550A のスクリーン電圧は約310V程度になり、カソフォロ段のP-K間電圧が約350V、ドライバーのP-K間電圧は約280Vになりました。

これでクオドラファイラ捲きの1次巻線が全て有効に使われる事になり、見た目にもスマートな回路となりました。
このOPT GX-100-3.6 は本来こういう使われ方を想定して設計・製作されたものと思いますが、3極管でバイアスが非常に深い 8045G ではドライブ段に高電圧が必要な為に出力段のプレートと同じ電圧を供給せざるを得なかったのでしょう。
結果的にA3000の場合、OPTはトリファイラ(3巻線)で充分だったけれども4番目の巻線が余ったのでNFに使ったというのが真相じゃないかと解釈しています。

以前のFC-FD巻線からドライバー段へ戻されていたNFは元々がC結合であり、信号的には出力段のカソードと同じなのでそれらをKA-KBに接続を移動し、この巻線からの初段へのフィードバックは廃止しました。

回路図内にで示した箇所が変更点です。初段は別の球に変更しようかとも考えましたが、最終的に満足な特性が得られたのでそのままになっています。

ループ帰還無しの状態で50dBあったゲインを減らすのと低域・高域共に裸特性を改善する為に2段目の12AU7をカソードフォロワに変更することを思いつきました。
20dB程度あると思われる2段目のゲインですが、これを0dBにするためには先ず共通カソード抵抗を廃してそれぞれのカソードに抵抗を振り分けておき、プレートの負荷抵抗は残してプレート・カソード共に同じ抵抗値の負荷とすることにより、単なるカソフォロではないP-K分割位相反転と等しい回路としました。

そしてそれぞれのカソードからたすき掛けで3段目に接続することにより上のプレートと下のカソード、下のプレートと上のカソードと言う具合に同相の出力同士をパラ接続して3段目に送ります。
これにより、上下の12AU7は交流的に並列に接続されたことになり、出力段と同じようにCSPPになります。(但しSingle EndではなくDouble Endですが...)
さらにここではカップリングコンデンサの容量を0.047μFから0.15μF(手持ちの都合(^^;)に増やして低域特性を改善します。

また、2段目のゲインが0dBになることにより、初段下側と2段目を繋いでいたコンデンサを廃して直結とし、ループ内時定数をひとつ減らしました。
直結することにより上下プレート電圧のバラツキが2段目に伝わり調整回路も持たない本機では一見拙いように見えますが、これは初段と同じく3〜4Vの上下電位差がそのままコピーされるだけであり、2段目の直流安定度は初段に依存するだけで初段が極端にバラついていなければ無視出来ます。(概ね5%以下?)

元より定電流源は無いもののμの高い初段につづく2段構成の差動回路で保たれていた平衡性が今度は初段の差動にのみ依存することになるように見えますが、2段目で上下の信号がサミングされるので初段のバラツキは 以前よりも強力に補正されます。

電源には新たに出力段スクリーンとドライバー段への電源供給のために2段目の供給電圧に準ずる電源を高耐圧MOS-FETを介して供給しています。これは300V巻線の電流容量に余裕がないため、こちらから供給すると最大出力付近ではSG電流が増え電圧降下が大きくなって出力に制限がかかるので、それを避けるための措置です。

バイアスのC電源はスクリーン電圧が下がることにより必要な出力管のバイアスも下がるので抵抗値を調節しています。


■ 特性

無帰還(Open Loop)時のゲインが約29dBとなり、周波数特性とダンピングファクターの向上の為にNFB量は約7dBにしました。

 

A3000-1 Serial# 907219

A3000-2 Serial#  010176

    Open Loop  Closed (NFB7.0dB)   Open Loop  Closed (NFB7.2dB)
 最大出力(5%歪み)   61 W   68 W   68 W   68 W
 ゲイン   29.1 dB   22.1 dB   29.6 dB   22.4 dB
 高域カットオフ (-3dB)   60 KHz   150 KHz   75 KHz   150 KHz
 ダンピングファクター (8Ω)  3.0   7.1  3.2   7.8
 残留ノイズ  0.4 mV   0.25 mV  0.35 mV   0.2 mV


アンプ@では80KHzあたりに弱冠のディップが観測されているが原因は不明。(ちゃんと調べていない(^^;)


アンプAでは非常に優秀な特性曲線を描く。(^o^)

無帰還状態でも非常に低い歪率を示したのは予想外でしたが、周波数特性は予定どおりで、7dBと軽めの負帰還を施した後は10〜100KHzが1dB以内に収まる正にフラット&ワイドレンジとなりました。


■ まとめ

改造前(ほぼオリジナル状態)の音質は全く気に入りませんでしたが、裸特性を改善して適量のNFBを施した本機はその潜在性能を発揮するに至ったと実感しました。

3段目及びドライブ段のプレート電圧と出力管のスクリーン電圧を抑えたことにより球に優しい動作となり、ほぼ入手不可能な6240Gではなく他のMT双3極管を使うことが出来ます。
※3段目にはそのまま6FQ7/6CG7が使え、ヒーター接続の変更をすれば12AU712BH7Aも使えますし、カソフォロ段はヒーター接続変更を条件に12BH7Aが耐圧の範囲で使えます。

そのドライブ段への電源供給にNF専用として使われていた4番目の巻線(FC-FD)を使うことで、『動作電圧の違う箇所をブートストラップするのが本来の目的であろうクオドラファイラ捲き線』を有効に利用することが出来ました。

GX-100-3.6

Before 

After

@ PA-PB 出力管プレートとSGドライブ段プレートへの電源供給とブートストラップ 出力管プレート
A KA-KB 出力管カソード 出力管カソードと3段目への負帰還
B FA-FB カソードフォロワへのブートストラップ カソードフォロワへのブートストラップ
C FC-FD 3段目と初段への負帰還 ドライブ段プレートへのブートストラップと出力管SGへの電源供給

GX100-3.6.JPG - 57,522BYTES

改造前は不自然と感じたエネルギーバランスがしっかりと整い、いかにも大出力アンプが持つ底力を感じさせてくれる音質になりました。

特性に弱冠の違いはありますが、アンプ@、AともにマッキントッシュタイプCSPPとして満足出来る音質と大出力を両立しています。

但し、大出力アンプとしてはゲインを抑えたために入力感度が低く、最大出力時約1.85Vrmsとなっています。
しかし、私の環境では他のアンプとゲインが近い方が使いやすいし、最大出力で使うこともありません。
もちろんプリアンプを使う環境では問題にならないし、却ってこの位が使いやすい入力感度とゲインだと思います。

大出力時の歪率はもう少し改善出来る余地があるように思えるのでさらに検討してみます。


改造 next

■ つづき

前述したように、入力感度が低いということは初段の耐入力が大きくないと初段が先に歪んでしまいます。

出力段がクリップする前に初段或いはドライバー段が限界に達してしまっては設計不良そのものです(^^;;;;
本機では改造によってゲインを減らした為にその分初段には以前より大きな入力電圧が必要になっています。
そしてその耐入力に余裕が無いために出力段よりも先に初段で歪みが増加する結果になってしまっています。

そこで初段の動作点を変更して耐入力を上げる変更をします。
当然初段の動作はリニアリティの良い範囲で増幅出来なければなりませんのでその為にはバイアスを深くします。

どれだけバイアスが必要なのかは負帰還を施す前の裸ゲインから算出します。
裸ゲインは約30倍ですから、最大出力70W(23.7V/8Ω)を得るための入力感度は約0.79Vrmsとなります。

0.79VrmsをPeak to Peakに直すと約2.8倍ですから2.2Vp-pとなり、
差動増幅では、2本の球で入力電圧を分け合うので、1本あたりの耐入力は1.1V以上という事になり、バイアスの最低値が0.55Vあれば成立することになります。

本機の共通カソード電位は0.8Vですので問題無いように見えますが、球のバイアスの浅い領域(0〜0.5V)はバラツキが大きく、グリッドリーク等の影響でリニアリティも悪化し、クリップ寸前の大入力では歪みが大きくなります。
改造前のA3000オリジナル設計では2段目のゲインが約20dB(10倍)あるので入力感度はさらに低い10分の1程度であり、0.8Vのバイアスでも全く問題無い訳です。

さてオープンゲインが10分の1に減った改造機においては最低値として算出した0.55Vよりも約0.5V高い1.05V以上をカソードバイアスに確保する必要があります。単純にバイアスを深くするとプレート電流が減りますが、そうすると必要な電圧まで増幅出来なくなってしまいますのでプレート電流は維持しなければなりません。と言うことはプレート電圧を上げるしか手は無い訳です。

初段は差動増幅ですのでもちろんプレート電流は共通カソード抵抗220KΩと負電源(−240V)で約0.5mAです。
下の12AX7AのEp-Ip特性図を見ればプレート電圧100Vで−1Vのバイアスであることが読み取れますが、実機では既にプレート電圧は110V以上であるにも関わらずカソード電位は0.8Vですので、使用している球の動作点は右方向へズレていることが推測出来ます。

上の特性のとおりならば茶色で示した負荷線になるところが、実機ではのカーブに重ねたの負荷線あたりで動作させないとバイアスは1Vにはなりません。
従って概ねプレート電圧を125V以上にしてやればバイアス電圧1V以上を確保出来る勘定です。


■ 変更した回路 Rev.2 (21-Nov-09)

実はアンプ回路には何も変更がありません。
供給電圧の+B2+B3が入れ替わり、それぞれの電圧が高くなっています。
初段のプレート電圧には約150Vを与え、バイアス電圧は1.1Vを確保出来たので、これで大出力時の歪率改善になります。
初段のプレート電圧を引き上げたことにより次段のグリッド電圧が上がり、それにつられてプレート電流が増加するためにカソード電位が上がってプレート電圧も下がり、球の動作点が低い方に移動してしまうので2段目には以前の+340Vからぐっと引き上げた+460Vを与えて、初段とほぼ同じ約140Vのプレート電圧を確保しました。これにて漸く図中の電圧配分が得られています。

ドライバー段への供給は電圧的に見て300V巻線からの供給も可能ですが、レギュレーションが伴わないために大出力時の出力管スクリーン電流の上昇に電圧がドロップしてしまい最大出力が低下してしまったので却下(^^;
従って正側電源はすべて+B1からドロップするかたちで配分し、結局のところ+B1以外の+B2,+B3,+B4の電圧は以前より高い設定になっています。


■ 特性 Rev.2

Rev.1 に較べるとアンプ@、Aともに10W以上の歪率が改善し、最大出力直前の66Wまで1%以下をキープしています。


■ 雑感

今回の改造は意図したとは言え、結果は半ば”マグレ”です。

大したメリットではありませんが、2段目の回路は【CSPP平衡バッファー】とでも呼べる面白い回路になりました(前例があるかどうかは不明)。

裸特性に於いてもかなりの低歪率で、軽いNFBで充分な低歪率に仕上がりました。

偉大?な KT-88 の影に隠れてあまり目立った評価はない球ですが、改めて GE 6550A の実力を再確認する事になりました。


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Last update 19-Jul-2010