2A3 シングルパワーアンプ の音質改善 June 2013

2013年6月: 別方面でお世話になっている方からアンプのチェック依頼がありました。

回路はオーソドックスなロフティン・ホワイトの2A3シングルアンプで、初段6SL7のパラ接続にSOVTEKの1枚プレート2A3、整流管には水銀入りの83を 奢り、電源フィルターやデカップリング等のコンデンサー(初段のカソードバイパスを除く)にフィルムコンを使ったシンプルながらもかなり贅沢な仕様になっています。


  回路図 (Before)


  諸特性 (Before)

※ 以下はR-chの測定結果ですが、L-chもほぼ同様です。
 
 最大出力 (歪率5%) 3.4W
 ゲイン

 18.5dB

 高域カットオフ (-3dB)  40 KHz
 低域カットオフ (-3dB) 10 Hz
 ダンピングファクター  2.8(8Ω)
 残留ノイズ  4.8 mV

残留ノイズが多い為に小出力での歪率 が良くありませんが、シングルアンプとしてはこんなもんかと。

 

周波数特性は小出力3極管シングルアンプとして標準的なレンジをカバーしています。


■ アンプ寸評 (Before)

2A3ロフティン・ホワイトSingleアンプは極まっとうな回路設計により正常な動作と素直な特性を示していました。
残留ノイズの大きいところが唯一の欠点ですが、これは少し調査が必要です。

別のところに多少問題を抱えていましたが、音質は正に「ロフティン・ホワイト」の特徴を反映したクリアな音です。
カチッとした直結アンプらしい端正な粒立ち感のある音ですが、やはりそこは「ロフティン・ホワイト」...全体的に軽い音調で重厚感が物足りないと言ったところでしょうか。
そのあたりなのか現オーナーが今ひとつ満足出来ないとのことで今回の依頼となりましたが、『特別こだわりはないので好きに変更して良い』とのこと。

このアンプに装備されたパーツはどれをとっても立派で信頼性の高いものばかりでしたが、これらを生かすも殺すもあとは小生次第。
うまく焼き直してオーナーのほころぶ笑顔を見てみたいものです。

もちろんうまくいく保証はないのですが、引き受けた以上はもう後には引けません。音質改善を目指して最善を尽くすべくチャレンジです。

 


  回路変更〜STC回路の応用   Oct 2013

■ 新回路へのアプローチ

2013年の夏は記録的な猛暑に見舞われ、おかげでハンダコテを握る気力は全く起きず...構想を練っては試行錯誤をしているうちに9月も過ぎてしまいました。
と言い訳はさておき...

SOVTEK2A3はいわゆる1枚プレートであり、H型プレートのUSA製後期型2A3等とは違ってリニアリティの良さが期待されると共にそのプレート面積も かなり大きくなっています。
世間のうわさではプレート損失がオリジナル2A3の15Wの2倍にあたる30Wと言う説も有りますが、互換性を重視したのかデータシート上では15W のままです。

とは言えかなりの余裕があると見込めるので、今回の回路を変更するにあたっては音質向上と出力アップも狙ってプレート損失約20Wの動作にしてみました。
出力管的にはまだまだ大丈夫そうですが、電源トランス容量に余裕が無くこのあたりの動作がこのセットの許容限界となります。

通常は5極出力管に適応される超3極管接続(STC)ですが、直熱3極管に応用することも可能です。
狙いは音質も含めてダンピングファクター、低域特性、高域特性等の向上ですが、超3極管接続(STC)はこれらシングルアンプの弱点とされる部分を強力に補強してくれます。

これまでの初段6SL7はパラレル接続のままで2A3の帰還管とし初段にはゲインの稼げる 2SK117BL を起用しましたが、左右でゲイン 差が出ないようになるべく同じ特性の2本を慎重に選別しました。カスケードには耐圧に余裕のある2SC2752を配し、基準のベース電圧は出力段のカソードから分圧する形で供給していますが、 初段がJ-FETとバイポーラTRでどちらも電流性の素子である為にいわゆるPSDCとしては機能しません。
半導体を利用したハイブリッド回路ですが、以前の回路で初段のカソードにあったパスコンが無くなり、回路上から電解コンデンサが姿を消しました。

残留ノイズは当初疑っていた2A3フィラメントの残留ハムのせいではなく、B電源のリップルが主原因でした。

その 対策としてB電源には高耐圧MOS-FET 2SK3301 にてリップルフィルターを二つ構成してR・L別に入れ、ここでクロストーク対策を兼ねます。
MOS-FETリップルフィルターはゲートに接続されるCRの時定数によりプレート・スイッチ投入からB電圧がゆっくり立ち上がるため、これによって水銀整流管83の突入電流を緩和することが出来、本機にとっては一石3鳥 !...と言いたいところですがMOS-FETが2個なので2石3鳥となっています。

最初にこのリップルフィルターは1400V耐圧のMOS-FETで組んだのですが、何回かの電源On/Offでいつの間にかFETが飛んでしまいました。
何故かその原因が判らないまま別のMOS-FETを試しましたがやっぱり数回のOn/Offで飛んでしまう。????
MOS-FETのゲートがハイ・インピーダンスなのが災いしてるのかと思い今度は高耐圧バイポーラTRを試したが、やっぱり飛んでしまうのです...(>_<)
うっかりしていたのですが、良く良く回路を見たらB電源のリターンに入っているプレート・スイッチが解放(Off)になると当然インダクティブキックが発生して高電圧が掛かっていたことが判りました。そのためスイッチをOff(Open)にしても完全 な解放にならないようにパラに1MΩを入れて対策、以降MOS-FETが飛ぶことは無くなりました。(ここはCとRのスパークキラーでも良いのですが、高耐圧のCが必要なので今回はRだけにしました。)

ただし、一つ別の弊害が出てしまいました。
それは電源投入後、83の水銀が蒸発した頃を見計らった後にプレート・スイッチを投入したその直後からアンプ回路が正常な動作電圧に達するまでの数秒間スピーカーからノイズが出ることです。
既に6SN7・2A3共にヒーターのウォームアップが済んだ後で B電圧が掛かる為、プレート・スイッチを投入したとたんに回路が動作を始めるのです。
その B電圧の立ち上がりがゆっくりな故に現れる回路の過度現象なので致し方ないのですが、現時点では我慢して戴くしかありません。対策はミューティング回路を追加するか、83をやめて傍熱型の整流管にする等の手がありますが、オーナーからクレームが付いたら考えましょう(^^;

MOS-FETリップルフィルターの効果は絶大で立ち上がった後は全く静かそのものでスピーカに耳を近づけてもハム等のノイズは殆ど確認出来ません。

致命的な欠点ではありませんが、超3極管接続(STC)にすることによって出力管の3極管特性が強調されることにより電源電圧の変動に弱くなる副作用があります。これはPSDCや自己バイアスの定電流化等の回路的工夫で改善可能ですが、今回の初段はJ−FETとバイポーラTRのカスケード接続の為、両デバイス共に電流性素子なので 出力段からのフィードバックも対策にはなり得ず、本機では目を瞑っています。


  諸特性 (After)

  L-ch R-ch
 最大出力 (歪率5%) 4.2 W 4.5 W
 最大出力 (歪率10%) 5.3 W 5.8W
 ゲイン 25.2 dB 25.0 dB
 高域カットオフ (-3dB) 65 KHz 65 KHz
 ダンピングファクター 7.0 (8Ω) 6.8 (8Ω)
 残留ノイズ 0.15 mV 0.12 mV

出力は予定どおり約25%のアップになりました。
約20Wのプレート損失なのでもう少し出ても良さそうな気もしますが、これはOPTの負荷インピーダンス(3KΩ)をもう少し立てれば良いと思われる(通常2.5KΩの 作例が多い)のですが既に充分なパワーですし、大差はありません。

RCA50の動作例で確認するとプレート損失約22W(400V,55mA)で出力3.4W、プレート損失約24W(450V,55mA)の場合で出力は4.6Wなので、プレート損失約20Wの本機は既に50同等以上の出力を得ています。 

以前よりも大きめの出力 だけではなく、充分なゲインを確保した上でループNFB無しの直熱管シングルアンプとしては高ダンピングファクターが得られたことと、極めて低い残留ノイズが今回の トピックです。

歪率は残留ノイズの低減により小出力での歪率も改善し、 シングルアンプとしては良好な特性です。

周波数特性は低域・高域共に改善、シングルアンプとしては充分過ぎる程に広帯域です。

R−chの100KHzと200KHz及びL−chの200KHzにそれぞれ−2dB程度のディップが見られますが、このディップは変更以前にも確認されており それぞれのOPTの特性に由来します。

前述したように本機はやや電源変動に弱いことから測定中の電圧変動(100〜105V)の影響を受けRchとLchで弱冠の差が出てしまいましたが、よほどの悪い環境でもない限り誤差はこの程度でしょう。


■ 音質評価 (After)

同じ出力管で基本的に同じ直結方式ながらすっきりさっぱり感の”ロフティン・ホワイト”に比べると”STC(超3極管接続)”ではかなり違った印象を受けます。

今回は2A3の標準動作例から3割増しのプレート損失で動作させていますが、STC回路がもたらす高ダンピングファクターと躍動感は同じ出力管をこうをも変えてしまうのかと改めて感心してしまいました。

さらにピュアな管球アンプ愛好者からは好まれない玉石混合(ハイブリッド)回路ながら、出てくる音からそんなことを意識させることは全くありません。

しかも世間では格上とされているRCA50を使った拙作STC IntraDrive 50シングル をも凌駕する勢いで、現時点で拙宅のアンプ評価用3waySP (Ortofon Kailas 7) を最も魅力的に鳴らしてくれま した。(やはりダンピングファクターの差が大きいのかな...(@-@;)

 

オーナーに納品の翌日、早速感想のメールをもらいましたが予想以上に高評価を戴けたので安堵すると共にこちらもHappyな気分になれたのは言うまでもありません(^^;
 


 Back to Home 


Last update 20-Oct-2015