超3結イントラドライブ 50 シングル  since Sep 2008

  

人生50を過ぎると何故か50 に手を出したくなる....、そんな動機で50アンプを製作するビルダーが居ても何の不思議はないですが...。

一度は作ってみたいという欲望が湧く古典管の代表格で、その希少性からもあのWE300Bよりも魅力的に見えてしまうし、その素晴らしい音質からもオーディオ人生の区切りにもなり得る球かと思います。(300歳はあり得ませんからね(^^;)

未開封のNOSが入手できたのはとても幸運であり、せっかく縁があったのだから個性の活かせるアンプに仕上げてやりたいと思うのがアンプビルダーの性。しかしシャーシは46singleからの転用なのですっかり見慣れた風体ですが、やはりRCA-50という球の存在感が目を引きます。

さて、先人たちによって様々な50シングルアンプが発表されてるので回路選択に困ることはありませんが、高価な直熱管でグリッド電流の流れやすい50の特質を考えると、イントラかグリッドチョークに依るドライブが最も安全かつ信頼性の高い方式です。

拙作801A singleのRev.4では3極管同士によるちょっと風変わりな超3結イントラドライブを試しましたが、今度は正当な5極管と3極管の組み合わせで超3結イントラドライブを組んでみました。


回路構成

ゼロからのスタートで50アンプを製作するのではないので当然トランス類は前作からの流用になり、理想からは離れたところからあらゆる意味で妥協点を見つけなければなりませんが、実際に在るモノを目の前にして如何に旨く利用するかを考えるのも楽しい時間であり、これは料理にも通ずるところです。
あらゆる分野でエコロジーが叫ばれる現代に於いてパーツのリサイクルは半ばアタリマエなのです。
元々2A3 single としてスタートした本機では電源トランスが2A3用なので、特性が大きく違う50には端っからB電圧不足が否めませんが、無理を承知で新しい試みをするのもある意味自作魂であり、自由気ままな趣味ならばこその手法です。

RCA-50の標準的な動作点はEp 450V、Eg -84V で IP 55mA です。
グリッド電流が流れやすくてバイアスが深いというドライブしにくい球の筆頭に挙げられる50ですが、CR結合など全く眼中に無い私にとってもはやトランスドライブか直結であり、高価な古典管を大事に使うためにもインターステージトランスによるドライブ回路を選びました。
既に実績のある拙作801A (VT-62) P-K合成出力A2級シングルでは270Vp−pものドライブ電圧を実現しており、これに比べれば3分の1程度ですので恐るるに足りません。


■ 回路図

初段は801A singleRev.4と同様にV−FETの2SK792SC1775によるカスケードで初段を構成し、6KR8A(T)を帰還管にして6KR8A(P)で構成する超3極管接続Ver.1で、イントラにはこれも同じ#10672(タンゴ)を使いました。

6KR8Aという球には馴染みがないと思いますが、テレビ用同期分離・映像増幅に使われた複合管で中μ3極管とシャープカットオフの5極管が一緒にMT-9pinに封入されています。それぞれ10.4mS,20mSと両ユニット共にとても大きなgmを持っている事が特徴です。
オーディオアンプに使われた実例を見たことはありませんが、単独で使っても6BM8と同程度の出力が取り出せると思われ、6DJ8に近い特性の3極部と相まって低電圧・大電流で使うには絶好の球です。

初段にも球を使いたいところですが、シャーシ上にスペースが無く今回もハイブリッド仕様になってしまいました。
初段も球で行くとしたらやはりHigh-gmの5847(WE404A)6EJ7が候補になります。

出力段には特筆するようなトピックは在りませんが、電源電圧不足を補うために自己バイアスと固定バイアスを併用しているのが特徴です。
実質71Vのバイアスを固定バイアスで51V、自己バイアスで20Vと言う具合にその負担を分けています。
さらにはドライブ電圧に余裕があるためカソード帰還をかけてダンピングファクターの向上を狙っています。


■ 電源回路 

タンゴMS−1602A3シングルステレオ用の電源トランスですので明らかに電圧が不足しています。電流容量もギリギリなので弱冠心許ないですが、あるものを積極的に利用するのが自作の道(ケチ?)なのです。

その電圧不足を少しでもカバーするため整流管には水銀入りのHX83を起用しました。シリコンダイオードほど高い電圧は取れませんが、その分電流は取り出せます。
水銀整流管は電流を流す(電圧を印加)前に予めヒーターを点火しておいて内部の水銀を気化させなければならず、別にスイッチを設けたりタイマーリレー等を仕込んで時間差をつけてB捲線からの電圧を投入する必要がありますが、今回は水銀蒸気を見てその行程を楽しみながら手動で行うべくプッシュスイッチを取り付けて自己保持式のリレー回路を設けました。

−C電源は70Vタップから半波整流したのち51Vツェナー(RD51B)で電圧を固定しました。

50のフィラメント点火電圧は7.5Vですので801A singleと同様にスイッチング電源(ACアダプター)に立ち上がり遅延を付けた回路で拙作300B差動PPから既に実績のあるモノです。
今回利用したACアダプターはSONY製のプレイステーションPS−1用(SCPH-112)で7.5V・2Aとちょうど良い定格出力を持っています。


基礎体力 (諸特性)Rev.1

 最大出力 (ノンクリップ) 3.8 W 
 最大出力 (歪率5%) 4.9 W 
 ゲイン

15.7 dB

 高域カットオフ (-3dB) 115 KHz
 ダンピングファクター   2.6 (8Ω)
 残留ノイズ 0.72  mV

RCA-50の標準的な動作点はEp 450V、Eg -84V で IP 55mA に対して、本機ではEp 350V、Eg -71V で IP 39mA とかなり控えめな動作ですが、その割には以外にも大きな出力が取り出せました。

オーバーオール無帰還のシングルアンプとしては良い歪率特性です。

イントラをSTCドライブした故に20〜50KHzにかけて僅かなピークがありますが、イントラを使ったアンプとしては信じ難いほどの広帯域になりました。


■ 音質傾向

もともと4.5W程度しか得られない球なので、出力は3Wそこそこ出れば充分です。
実際に測定して充分なパワーが得られたので、密かに目論んでいたB電圧アップは止めて貴重な古典球を末永く楽しむ事にします。

801A (VT-62) P-K合成出力A2級シングルで試した不完全な超3極管接続インターステージドライブは従来のトランスドライブの概念を吹き飛ばす印象を持ちましたが、今回の6KR8による正統な超3結ドライブは予想に違わない結果で満足できるモノになりました。

これまで50に対しては割とソリッドで男性的イメージを持っていましたが、やはり直熱管シングルは女性ボーカルが”イイ”です(^^;
全くの個人の主観で申し訳ありませんがとてもセクシーな声色で唱いかけてきます。

直熱管シングルには出力管の個性を楽しむおもしろさがありますが、今回のRCA-50はやはり拙作の46801A等とはまた違った個性を楽しませてくれます。

 


 Rev. 2  Dec-2008

作りっぱなしの野放し状態(^^;でもなかなかの性能を見せてくれましたが、15dB程度のゲインでは実用的に物足りないので、初段でのゲインを稼ぐべく見直しました。

これは帰還管である6KR8(T)がかなりの高gm(10.4mS)であるためにカソード抵抗を1KΩ程度にしか設定出来ないことが主要因で、初めてSTCイントラドライブに挑戦した801A single Rev.46EM7(T)(gm=1.6mS)とはそのμと共にけっこうな違いがあります。

そうなると初段のゲインを稼ぐしか無く、定石どおりにソース抵抗にパスコンを付けて電流帰還を無くす(又は軽減する)のが早道です。
しかし、そうすると超3結では歪みが悪化するのを何度も経験していますが、それを逆手にとって出力段の2次歪みと打ち消しあう様にしてしまえば一石二鳥です。


■ 回路図

Rev.1 でのゲイン不足を補うべく初段のソース抵抗のバイアス電圧の半分をダイオードで賄い電流帰還を半減させました。

そのついでに高域のピークを抑えるべく、初段ゲートには1000PFのコンデンサをぶら下げました。
(始めはイントラ2次側にターミネート抵抗を付けて解決しようと思いましたが、負荷線が立つとドライブ能力が落ちるので止めました。)

電源部に変更はありません。


基礎体力 (諸特性)Rev.2

 最大出力 (ノンクリップ) 4.9 W 
 最大出力 (歪率5%) 5.8 W 
 ゲイン

20.7 dB

 高域カットオフ (-3dB) 71 KHz
 ダンピングファクター   2.6 (8Ω)
 残留ノイズ 0.72  mV

初段の電流帰還を軽減したことによりドライブ段の歪みが増え、良い塩梅に出力段と打ち消しあっています。
その結果、Ep=350Vにもかかわらず信じられないほどに大きな出力を取り出せる結果となりました。

高域のピークはちょうど良いレベルに収まりました。
それにつれて高域カットオフは71KHzに下がりましたが、トランスドライブのシングルアンプではこれでもかなりの広帯域です。

 


 Rev. 2.+  Aug-2009

整流管 HX83 に於いてフィラメントのプリヒート後にスイッチ又はリレーで高圧を印加するやり方は水銀整流管をつかう上では必要な手段ですが、チョーク・インプットならいざ知らずコンデンサ・インプットではスイッチがオンになった瞬間にコンデンサへ大きな充電電流が生じて整流管を著しく痛めることになります。

毎日電源を入れる常用機ではなくとも、この先水銀整流管が新たに生産されるとは思えないので、可能な限り寿命を延ばすためにも突入電流を和らげる工夫が必要です。

電源トランスとチョークを変更してチョーク・インプットに改めるのがシンプルな解決策ですが、それでは本末転倒。現在のコンデンサ・インプットのままで出来ることとして、コンデンサの容量を少なくすると言う簡単な手もありますが、突入は減っても無くならないので中途半端です。

今回は整流管直後にディレイ回路を挿入することにより、高圧リレーON後に立ち上る+B電圧をゆっくり上昇する様にしました。


■ 電源回路

両波整流ですので320V巻線の中点0Vラインに高耐圧 MOS-FET (2SK350) を入れて遅延スタートとしました。

見てのとおり、フィラメントの突入対策と基本的に同じであり、時定数が違うだけの回路です。

これにて貴重な水銀整流管の延命が期待出来ます。

えっ、? どうして+側でなくグランド側にN−ch MOS-FETを入れたか?ですか?

通常、電圧レギュレーターやリップルフィルター等で使われる半導体素子は整流直後の+側にエミッタ・フォロワーやソース・フォロワーを挿入するものですが、そうすると時定数回路のコンデンサ(C)やダイオード(Di)の耐圧をB電圧以上に大きく取る必要がありますが、ソース接地で使えばゲート電圧が低くて済むので C も Di も20V程度の耐圧で間に合います。

突入防止だけですのでコンデンサインプットのコンデンサにだけ直列になれば充分ですが、コンデンサが47μF x 2のブロック型なのと実装の簡便さから本機ではB巻線の帰路に入れました。

 


 Rev. 3. PK合成出力 Sep-2015

50Single の音はRev.1の音質傾向にも書いた様に期待を裏切らないものでしたが、 Sovtek 2A3 シング ルアンプの改善超3結(STC)化した2A3が信じられないくらいのクオリティを身に付け本機を上回ってしまいました。

どちらも直熱3極管ならではの美しい高域と色気を備えているのは同じなのですが、違いを感じるのはやはりダンピングによるもので低域の出方にはにはハッキリとした差があります。

前者(50)は約2.6と極普通の3極管無帰還シングルの値なのに対し、後者(2A3)は約7.0と倍以上の値を示し、これはSTCの効果に他なりません。

拙作801A singleのRev.4では超3結イントラドライブのみならず、801Aのバイアス特性を生かしたゼロバイアスによるA2動作とPK合成出力段を実現していましたが、本機でもダンピングファクター向上の秘策としてSTCではなくP-K合成出力を採用し57%のKNFをかけることにしました。


 


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Last update 28-Sep-2015