300B 全段直結差動PP  since Aug 2004

   

※ 本機は2011年1月を以て、300B CSPPへ変更しました。

前作 2A3全段直結差動PP を解体して生まれ変わったのが本機です。

前作では最終的に2A36B4Gの混声アンプだったこともあり、14年も稼働すると例え音質に不満が無くても流石に出力管以外の球や電解コンデンサの寿命も気になります。 電源トランスのMX280に余裕が無かった(と言うより殆ど定格オーバーで使っていた)こともあり、そろそろ潮時かと思い解体・再製作に踏み切りました。

手元には94年に上海に出張の際、とある高級?オーディオショップで買った300Bが4本あります。
(Golden Dragon と同じ Shuguang (曙光電子)製で、選別が聞いたこともない Gold ox ブランドです)
WE製ならいざ知らず、中国製を10年もデッドストックにしておいても価値は上がりませんし、下手すると賞味期限切れ?になるかも知れません。早々にアンプにしてしゃぶってやりましょう。

これまで使っていた電源トランスのMX280300B 4本分の電力を賄うには容量的に無理があります。 モノラルならば充分いけますが、当然シャーシーは再利用するのでモノラル構成にするつもりは毛頭無く、新たに大容量のPC3011を起用することにしました。このトランスはブリッジ整流用の為、整流管5U4GBが不要になるのでその位置にはチョークA4003を配置し、OPTのF2021と同じくトランス類は全てタムラで統一しました。 ついでに電解コンデンサ(セラファイン)も全て新品に換えてシャーシー後方のかつての初段が在った位置に移動、OPTとPTの間の元々電解コンデンサの在った場所には初段とドライブ段の球を配置してみました。
シャーシー(SL−20)のトップもワインレッドのメタリックに塗装して、ちょっとだけ高級?な雰囲気になりました。

ところが今年(2004)のMJ4月号をみてビックリ、長真弓氏がまるでソックリなラインアップで300B-PPアンプを発表しています。(シャーシーレイアウトは全然違いますが...。)
本機の構想は03年の10月から決まってましたのでマネをした訳ではないのですが、初段・出力段・OPT・PTが全く同じですし、管種は違いますが、カソードフォロワーを採用しているところまで一緒です。
決定的に違うのは、向こうが普通のDEPP(AB級)、こちらは差動PP(A級)出力です。本機は私のオリジナルですので違って当然ですが、偶然にも似た構成のアンプになってしまいました。
さて、似て非なるものではありますが、つい音質を聞き比べてみたいと思ってしまいます(^^;)。

Rev.2 を加筆しました。(06/12/12)


回路構成

初段に双5極管の 6J11 差動に6BL7 カソードフォロワー にて出力段 300B 差動をドライブする2段増幅構成で、初段の定電流回路は6EJ7、出力段の定電流回路は半導体(MOS-FET)2SK683です。

前作が双3極管6072(12AY7)6BX7の3段増幅構成だったので最初はそのまま2A3300Bに置き換えるつもりだったのですが、バランスサーボを拙作 6L6超3結差動PP でうまくいった5極管のスクリーン制御方式にするために、よりシンプルな2段増幅にしました。
オール3極管構成に拘る向きもありますが、3極管で2段増幅にすると(球によりますが)電圧が上がり過ぎ、全段直結で行くには嵩上げ電圧が大きくなり過ぎるきらいがありますし、直流安定度の点でも段数は少ない方が有利です。 直結に拘らなければずっと設計が楽ですが、しなやかかつシャープな音像を表現出来るのが直結です。

サーボなしの回路図

サーボ無しの回路は割とあっさりとしています。DCバランスを初段のスクリーングリッドで行うところが珍しい所ですが、長真弓氏も似たような手法でした。 本機はDCバランスサーボが前提ですので前段階として必然的にこうなります。 この状態でKNF巻線E1、E2側に入れた5Ωの電流検出用抵抗をモニターしていると、アンバランスの電流は5〜6mAを推移します。 F2021の許容アンバランス電流は10mAですのでとりあえず許容範囲ですが、一旦電源を切って再投入すると10mA以上ズレてしまいます。 センターメーターを付けて監視しながら調整という手もありますが、四六時中調整する羽目に陥りそうです。 ゲインの高い5極管でDC安定性を望むのは無理な注文だと言うことでしょう。3極管または3結ならばサーボなしでも何とか実用になります。

6J11は高周波増幅用high−gmの双5極管で、EL34(T)全段直結差動PP で起用した6BN11と電気的にも見た目にも同等の12pin コンパクトロン管ですが、両者はpinアサインメントだけが違っています。従って、ソケットの配線を変更しないと差し替えが出来ません。

6BN11では超3結Ver.4にしましたが、本機では初段だけで300Bをドライブする為の電圧とゲインを稼がなくてはなりませんので必然的に5極管動作を選びました。
元々はテレビの中間周波増幅用途だった様ですが、差動増幅には持ってこいの球です。 個人的に特性と音質が気に入っています。

5極管を使えばゲインは充分取れるし、ミラー効果による高域減衰も避けられるし、直線性の悪さは差動で組めば問題ありません。 高gmタイプを使って負荷抵抗を小さめに設定すれば出力インピーダンスも不用意に上昇させることなく、その負荷抵抗値で収められます。
世間では5極管を採用すると歪みの種類が違うから音色の統一性が無くなるとか言われる場合もありますが、そんなものはオカルトです。
かのWE−91Bも5極管310A300Bの構成ですが、絶賛されても批判された記事を見たことがありません。 大事なのは3極管だろうが5極管だろうが、その特徴をつかんで適切な設計をすれば良い訳です。

差動増幅回路は素子の非直線性を補正して直線動作に近づけてくれるので、5極管の高利得を活かせます。
定電流回路は当初半導体で行こうと思っていたのですが、シャーシーに残った余分な穴をふさぐために5極管を採用しました。半導体式の方が簡単ですが、球は使い慣れていますので私にとっては苦になりません。 本機には当てはまりませんが、却って低電圧の負電源を用意する方が困難だったりする場合もあります。

ドライブ段には電流を10mA以上流す設定にしたカソードフォロワーを採用しました。
このくらい流そうとするともはや6SN7(μ=20)では 荷が重く、かといって6BX7にするとμ=10と低く、初段にちょっとばかり高い電圧を要求するのでドライブ電圧が厳しい本機では苦しくなります。 ここはその中間の特性となるμ=15の6BL7を採用しました。

過去の経験からカソードフォロワーは音質的にイマイチ好きではなかったのですが、それも10年以上前の過去の経験のこと、もう私の頭の中には具体的な音質はどうだったのか思い出せませんし、こうなると改めて評価する価値は充分にありそうです。 それというのも EL34(T)全段直結差動PP で起用した超3結Ver.4 が思いのほか良かったので差動出力には相性が良いのかも知れません。

「電流は出来るだけ流した方が音が良い(太い)」という迷信がありますが、ことカソードフォロワーに関してはあながち根拠が無いわけではないと思います。それは【電流を沢山流す→カソード負荷抵抗を小さくできる→ドライブインピーダンスが低くなる】からです。 直熱出力管でグリッド抵抗の値を小さくする(出来る)ことは重要な意味を持ちます。

カソードフォロワー段は出力管を低インピーダンスでドライブするのと、電源投入時からウォームアップするまで出力管のグリッド電位をカソード(フィラメント)よりも負に保ち、直熱管より遅れて立ち上がる(傍熱管の為)ことによりソフトスタートを可能にしてくれます。

この点、3極管の3段直結構成にしてしまうと出力管のグリッドがドライブ段のウォームアップ中に高電圧に晒されてしまいます。それでも差動出力段の場合は定電流によってその2球のIpの和が制限されているのでグリッド電圧につられてカソード電位が上昇し、実質的なプレート電圧は低く抑えられるので、ロフチンホワイトのようにプレートが赤熱する程の過大電力損失が消費される事はありません。 しかし、カソード・ヒーター間の耐電圧を越えてしまう可能性があるので注意が必要です。 どちらにしても定常状態になるまでの過度状態にはPPの上下どちらかの球に電流が偏ってしまう事態は避けられません。

このアンプの前身である2A3差動では実際このような動作をしていたわけですが、差動出力に変更後の7年は無事故で稼働していたので、特に寿命に影響したとは言えません。 しかし、直熱管を直結ドライブするにはP−G直結よりもK−G直結(カソードフォロワー)の方がより安全です。(もちろんイントラドライブで自己バイアスが最も安全ですけど...(^^;) 但し、カソフォロであまりプレートとグリッド間の電圧が大きすぎると今度はグリッドプレート間でスパークする可能性が出てきますので要注意です。(特にレギュレーター管)

中国製とは言え、決して安くはない300Bですので低インピーダンスドライブと安全方向にも配慮したドライブ段です。

冒頭、初めに300Bありきで本機を作ったように書いてしまいましたが、300Bを採用する理由はもうひとつ別にあります。

A級動作の通常型DEPPと同じ負荷に設定した差動PPでは通常型DEPPのA級動作よりも出力が取れませんが、どちらかというと負荷を立てるよりも寝かせ気味にして高めの電圧をかけてやったほうが取り出せる出力は上昇します。
差動PPではテレビの垂直偏向用途の球等の直線性の良くない球を大きく改善させる動作が期待出来ますが、逆に直熱管の様な直線性の良い球ではさらに負荷を寝かせる事によって動作電圧範囲を大きくとることが出来るのです(ゲインは下がりますが)。 差動PPでは定電流によって最大IPが制限されているかわりに電圧範囲を広く取ることにより高出力化への道が開ける訳です。
すなわち、球にもよりますが通常型DEPPの代表的なA級動作例よりも大出力を得ることが可能になってくるのです。

300Bは非常にリニアリティの良い特性を持った真空管として有名です。
上のEP−IP曲線を見れば一目瞭然で500V以上の高電圧領域でもIP曲線が詰まらず、かつ立っています。
直熱管は殆どが優秀な直線性を示していますが、300Bは高電圧領域まで直線性を保ち、かつ低rpと優秀です。

一方、傍熱出力管の雄6550Aの3結データ(上)を見てみると末広がりの特性で高電圧領域では曲線の間隔が詰まってきて(gmが低下)さらにその曲線自体も寝てしまって(rpが上昇する)直線性が悪化します。 傍熱管だとたいていがこのような特性ですが、下のフィリップスEL34(6CA7)の3結データを見るとまるで直熱管のように高電圧領域でのリニアリティが確保されています。

拙作 EL34(T)全段直結差動PP では6550Aよりも却ってEL34の方が1,2ワットですが出力を多く取りだせます。(差動と定電流のおかげで動作条件はどんな球を差してもほぼ同じです。)

差動PP出力で大きな出力を確保しようとすると、直熱管やEL34等の直線性の良い球にP−P間8K〜10K程度の負荷動作が歪み率でもダンピングファクターでも有利になります。
また、50CA10(EL34差動PPの前身は50CA10差動PPだった)も高電圧領域のリニアリティが良く、差動アンプ向きの球と言えます。

逆に直熱管なのにイマイチ差動に向いていないと感じたのが前作の2A3(RCA)・6B4G(KENRAD)です。 どうも500V以上の特性が宜しくないようで、実験で負荷を寝かせていくと却って出力は減少してしまいました。 しかし、P−P間5K負荷でもシングルの倍の8Wは取れていたので2A3はそれで充分としました。 (球のメーカーと動作点の設定次第ではまだ可能性が有りますので、私の結果だけを鵜呑みにしないで下さい(^^;)

最近流通しているSOVTEKの1枚プレート2A3・6B4Gなら余裕のプレートの大きさから高出力が期待出来そうです。

世間一般の300Bアンプでは 350V/60mA (損失21W) 付近の動作例が多いですが、最大プレート損失が 36W も許容されているのにかなり控えめな数値です。 本機では間を取って約30W 付近になるようにに設定してみました。

負荷はF2021の4Ω端子に8Ωを繋いでP-P間10KΩとみなして使います。 A級PPですので1球あたり5KΩで負荷線を引いたのが上図です。 動作中心を450V・70mA(31.5W)で設定すると大体25W程度取れる計算になります。

当然の事ながら本機は定電流回路で縛られた差動アンプですので絶対的にA級動作しか出来ません。

サーボ付き回路

DCバランスサーボは初段のスクリーン電圧を制御する方式です。
最初は 6L6超3結差動PP と同様に2SJ117による差動だけで済ませるつもりでしたが、コモンモードでも直流レベルが安定するように2SK320で受けて2SJ117で反転するように変更しました。
気になるドリフト(バランスの崩れ)は1mA以内に楽に収まります。 実際は0.2〜3mAのドリフトしか観測出来ません。

サーボによる安定動作は大きな安心感とたっぷり安定した低域再生を可能にしてくれます。
DCバランスサーボは低域時定数を1段増やしてしまいますが、OPTより低く設定しています。
(この時定数がOPTに近いと超低域で発振する可能性がありますのでご注意。)


電源回路

電源は初段に+300V、出力段は嵩上げ方式で+210Vに+440Vを重ねて+650Vとしています。ドライバ段は最初のうち初段と同じく+300Vから供給していましたが、出力段がタダでさえ大きなドライブ電圧を必要とするうえにKNFを併用しているので出力段の+650Vからドロップ抵抗を介して約+530Vを供給しています。  
初段定電流に−160Vを用意したので 正負電源の最大電位差は稼働状態で約810Vにもなり、電源投入直後は1000V近くまで達します。従って配線には(絶縁という意味に於いて)それなりの配慮が必要になってきます。
650Vの電圧がかかる配線(電解コンデンサ、チョーク、OPT、300Bプレート等)には念のため配線材の上に絶縁チューブを被せています。

300Bの点火

300B のフィラメントはDC点火です。
普通なら6.3Vを整流してπ型フィルターでDC点火というパターンですが、本機では前作と同様KNFを利用するのでフィラメント回路は4つ独立している必要がありますPC-3011には十分な容量のヒーター巻線がありますが、3巻線ですので足りません。 低圧で大電流の整流回路は大容量の電解コンデンサが不可欠ですし、場所を取る割には残留ノイズに不満が残りますので、本機では若松通商に安く出ている5V・2Aのスイッチング電源(DENSEI LAMBDA製VS10C-5を4台使ってみました。

かつて2A3を使っていた時にはAC点火でしたが、2.5Vと低いフィラメント電圧なので無帰還でも残留ノイズはかろうじて1mV程度に抑えられました。 しかし、スピーカーを取り替えて能率が上がってからはウーハーから聞こえる50/60Hzとか100/120Hzよりも中音ドライバーから出るハムの高調波(200Hz以上?ブーと言うよりジー)の方が気になってしまい、もっと静かなアンプにする必要性を感じていました。
従ってAC点火や中途半端なDC点火(脈流点火?)で妥協せず、よりDCに近いスイッチング電源の方が発熱とスペースファクター、コストも含めて有利と踏んで採用しています。

スイッチング電源をフィラメントの点火に使う場合に問題になるのが過電流保護が動作してしまうことで、コールドスタート時の突入電流により結果的に電源が出力しなくなってしまうことです。
全てのスイッチング電源で起こるものとは言えませんし、電流容量の大きなものを使えば過電流にも保護回路が動作せずに済むかも知れません。しかし、電流容量が大きければそれだけ立ち上がり時の電流も大きくなり、瞬間的でも過大電流は球とスイッチング電源自身を痛める要因にもなり得ます。
本機ではスタート時の立ち上がり電流を制限するために300Bのフィラメントと直列に2Ωの抵抗を配し、CRの時定数により遅れて立ち上がるMOS-FETによるスイッチでその2Ωをショートします。MOS-FETにはジャンクの基盤から外した低RDS−ON(45mΩ)の IXFH50N20 を使いましたが、国産なら2SK3061(8mΩ)等が若松通商で231円と安く、この手のスイッチング用途にはうってつけです。

2Ωの抵抗は無くてもMOS−FETがスイッチング動作して300Bの点火には支障ありませんが、本機ではフィラメント回路が定電流と嵩上げ電源によりグランドから約+250Vフローティングされております。フィラメント点火に起用したスイッチング電源の信頼性が未知数だった為に絶縁破壊やスパークする可能性もあると想定し、その拍子にFETを破壊する可能性も考えられた為に安全策をとっています。(スイッチング電源VS10C-5自身は入力〜FG間及び入力〜出力間で2KVAC、出力〜FG間で500VACの絶縁耐圧が保証されていました。)
こういった高電圧を扱う回路では個人的にまだまだ半導体を全面的に信用出来ません。2Ωがあることにより、もしもFETスイッチがオープンで故障した際でもフィラメントに電流を流し続けて差動PPの片方の球だけに電流が全部集中してしまうことを少しでも避けるための配慮です。
300B
のフィラメントは計算上点火状態で4Ωですから、もしFETスイッチが壊れても3.3Vの電圧が掛かる勘定です。

DC点火なのにわざわざハムバランサー(半固定抵抗)を入れた例が見受けられますが、DCなら本来は必要ありません。
直熱管ではフィラメントの電位の低い方に電流(Ip)が集中するので、本機ではプラス側を電流取り出しとして、KNF巻線を通過し、電流検出抵抗を経たのちに定電流回路で合流します。(整流後のフィルターが充分でない場合には、残留リップルを打ち消す為にハムバランサーを必要としている場合もありますが、本機では無縁です。)

初段のハム対策

一旦はDC点火にしてみたのですが、AC点火に戻しました。 初段はハイゲインでオーバーオールの帰還を使わないことからヒーターハムにはクリティカルです。

6J11は高周波用途でオーディオ用ローノイズの球ではありませんので3結で使うのならいざ知らず、5結ではそれなりの対策が必要になります。
面白いことに無対策のAC点火でも右chは0.3mV程度でとても静かなのですが、左chには1mV以上の50Hzハムノイズが載ってしまい、左右で球を入れ換えると当然の如く入れ替わります。察するとおり球のバラツキなので、ストックに良い球が無いかと5本買った残りの予備3本と入れ換えて試してみましたが、1mV以下なのは1本だけでした。
つまり、最初に右chに使った1本だけがローノイズ、他の4本はどれも似たり寄ったりで、球の選別以外になにか解決手段を考えなくてはいけません。

DC点火も選択肢の一つですが、平滑後には歪んだ100(120)Hzのリップルが残ります。レギュレーターを使って出力DCを綺麗にしても6J11は0.8A、2本で1.6Aと大食いなので、ダイオードからの整流ノイズがいやがおうにも大きくなり、シャーシー内部を飛び回っては配線等に飛びつき、せっかく出力段300Bの点火をスイッチング電源にしてノイズスペクトルを可聴範囲外に追いやった努力が台無しになってしまいます。
こちらもスイッチング電源にしてしまう手も考えられますが、ゲインの高い初段に採用するのには新たな問題を生む可能性もあるので今回はパス。

当たり前ですが、初段のヒーターから乗るハムノイズは電源波形そのものの50Hzです。と言う事は脈流や整流ノイズなどの歪み成分が少ないので、今回はハム・キャンセラー( *HC )として初段のグリッド接地側にほんの僅かのACを注入して50Hzを50Hzでキャンセルする手法を思い付きました。

6J11に供給するヒーター巻線を68Ω2本で中性接地とし、左右のch用にそれぞれ10KΩVRから初段のグリッド接地側に入れた0.1ΩにACを入力(回路図中の *HC )しています。 ACの位相は10KΩVRの中点から右又は左を選ぶことで合わせ、VRを回す角度でAC注入量が決まります。

このおかげで残留ノイズは0.15mVとオーバーオールのNFBを施した半導体アンプ並に静かになりました。(拙作比(^^;)


配線作業の途中。実験のための空中配線が飛び交っている。
右写真下にあるのは補強用のLアングル、左写真の様に20mmのスぺーサーを挟んで取り付け。
SL20は天板が厚いとは言え所詮はアルミ、中央の電源トランス部分が重量で窪んでOPTが中央に向かってお辞儀してしまうので補強は必須です。


基礎体力 

 最大出力(歪率5%)  15 W 
 ゲイン  27.9 dB
 高域カットオフ(-3dB)  65 KHz
 ダンピングファクター  6.5 (8Ω)
 残留ノイズ  0.15 mV 

最終的に300Bプレートへの入力を390V・70mA(27.3W)と抑えた事により、実用出力は実験途中の24Wからすると低い15Wとなりました。
歪率5%を越える15Wからさらに20Wを越えてもリニアに出力が増えて行くのでまだまだ工夫の余地がありますが、拙宅のシステムには充分なパワーであり、とりあえず暫くはこれで良しとしました。

出力よりも無帰還の直熱3極管アンプで0.15mVと言う低い残留ノイズが今回の一番の成果です。
最大出力についてはまだやることがあるので次のバージョンにて回路と電圧配分を変えてもっと追い込むつもりです。

高域カットオフは65KHzと平凡ですが、オーバーオール無帰還ですからこんなモンです。

1KHz歪率カーブは 6L6超3結差動PP にソックリです。歪みの成分は3次歪みが主体で出力と共に歪みも増えていきます。


■ 音質

高級部品を選りすぐったものではありませんが、これだけ実績のある球とトランスを使っておいてもしも悪いとすれば、設計製作者が粗悪品であることの証明です(~o~)

音の良し悪しは個人の主観に依存しますので客観的な事は言えませんが、前作 2A3全段直結差動PP を上回る物理特性と音質が目標でしたので、少なくともその目的は達成しています。(こういうフレーズってよく雑誌の製作記事でも見かけますよね(^^;結局の所あまり説得力がない。誰でも出来る?)

手前味噌ではありますが、自前の差動アンプの中ではやはり最良と言える出来で、直熱管の直裁的な表現力と差動PP出力の前後左右の立体的な定位、全帯域に渡るエネルギー感と躍動感が音色と音像のコントラストを表現します。スイッチング電源による出力段フィラメントDC点火と初段ヒーターハム・キャンセラーで得たローノイズがそれらを引き立てているように思います。 
自画自賛は羊頭狗肉とお思いの方は勝手にどうぞ<(_ _)>

全体のルックスでもかつての2A3アンプをベースにした割にはバランス良く纏まった(上手く無駄穴を隠せた!)ものだと我ながら感心しています。


■ 雑感

03年から遊んでいる(実は遊ばれている?) 半導体 Universal CSPP-OTL のあるユニットからはかなりレベルの高い音が出て【もしかすると管球アンプはもう必要ないのでは?】と思わせる程楽しませてくれます。...が、しかし、本機の音を聞くとやはり真空管の何とも言えない色気と深い響きにまた魅了されてしまいます。

結局半導体アンプも管球アンプもそれなりに得られるものがあり、甲乙など付ける必要はありません (^◇^)
真空管も半導体も両方楽しめる幸せな時代に生きていることに素直に感謝しましょう m(_ _)m

と言うことで、私は両方作って比べられると言う楽しいお遊び(悩み鴨?)が...。
当然の事ながら、両方とも中途半端で終わらないよう心がけますが、保証はありません (^^;)

これまで差動出力アンプは本機を含めてのべ6種類作りました。
その音質は差動出力の特徴と言って良いのでしょうが、前後が見渡せる定位感とエッジ強調をしない、それでいて決してボケることのない自然なフォーカスの音像を提供してくれます。

本機はこれまでの差動アンプとの付き合いで得たノウハウや成果の集約のつもりで作りました。
全段直結差動と直熱管の組み合わせは前作2A3差動でも同様でしたが、300Bと名の付く真空管だけに良いモノにしようと前作以上に気合いが入ったのは云うまでもありません。
しかし、出力に関してはまだ可能性を残しながらも中途半端になりましたので、焦らず慌てずさらなる改良を加えていく予定です。

 

 Shuguang (曙光電子)では300B−98と名打った98年製の評判が良いようです。比べていないので何とも言えませんが、94年製でも文句なしに音楽が楽しめていますので、made in china 侮り難しです。
 

 

 


 Rev. 2 SRPP Driven  Dec 2006

製作してから2年以上の歳月が経ち、すっかり忘れていた感のある課題に取りかかることにしました。

2年経ったこのアンプを振り返ると、その安定動作と不満のない音質にこれ以上手を加えることにまるで必然性を感じなかったのですが、2年前に中途半端と自ら可能性を残したままにしていたのでブラッシュアップの意味を込めてちょっぴり進化(?)させたいと漸く手を付けました。

本機では普通ではない回路構成のために下記のような悪条件が揃っています。

このようにドライブには悪い条件が揃っていますが、悪条件を克服すべく課題にトライします。

1) 最大出力アップ。
   → 初段プレート電圧を上げて、より高いドライブ電圧の確保。
2) サーボ回路の見直し。
    (2年間でたったの2回だけだが、何かのタイミングでラッチアップして音が出なくなることがあった。)

これらの要求を満たすために以下の変更を加えます。

問題は出力段ではなく初段での絶対的なドライブ電圧の確保が必要なだけであり、2段増幅構成でもゲイン(増幅率)に全然困っていないのです。


回路構成

初段の定電流に使っていた6EJ7の代役として、それまでの負電源(-B)を変更しなくてもそのまま使える高耐圧MOS-FETの2SK320へ変更しました。
そしてその9pinMTのスペースには6FQ7/6CG7を配して6J11と変則SRPPを構成します。

これは6J11と同じくGE製で、2つのユニットをシリーズに貫通する1本のヒーター構造のおかげでユニット同士のバラツキが少ないのが非常に有難い球です。耐電圧の余裕とかルックスを優先すれば6SN7GTBの方が良いですが、本機のような直結アンプでのDCバランスやドリフトを考えるとGE 6FQ7/6CG7が断然有利です。

SRPPの出力には負荷が必要ですので上下の6FQ7カソード間に180KΩを繋いであります。次段に繋がる6BL7のグリッドは直結でCR結合のようなグリッドリーク抵抗が無くインピーダンスが高いので、こうしないと6FQ7はSRPPの動作ではなく定電流動作の負荷(真空管抵抗)になってしまいます。本当はもっと小さい抵抗値(数KΩ)にしないと効果は殆ど無いのですが、ドライブに必要な最大電圧が規制されて3次歪みが増えるので本機ではここいらが限界です。

100KΩだった初段の負荷抵抗が球に置き換わり、供給電圧を上げたことにより初段のプレートからDCレベルが上昇、カソードフォロワーの電流が増えるので負荷抵抗を15Kから20Kに変更しています。(実際は30K/5Wのパラ接続だったものを39K/5Wのパラ接続にしている)

DCサーボはシンプルに2SJ117の差動だけとなり、結局6L6CSPPPと同じスタイルになりました。(最初からこうしておけば良かったと反省(^^;)


電源回路

350Vタップから整流していたB1電源を400Vタップに変更し、ブリッジの直後に抵抗を入れて電圧を調整しています。こうすると僅かですが流通角が広くなりトランス巻線の発熱が抑えられるし、整流ノイズも低減してちょっぴり球整流に近づきます。(気分だけかも?(^^;) 
レギュレーションは劣る方向ですが、A級動作の本機には全く悪影響はありません。

初段に供給していた+300Vが不要になりますが、出力段の嵩上げ電圧に使うには高すぎるので1KΩの抵抗で240Vに接続し、240V側が電圧降下で下がらないようにして嵩上げ電圧を以前の210Vから240Vに引き上げています。

初段SRPPへの供給電圧は400V以上確保したかったのでカソード・フォロワーと同じB1から10K/10Wを介して供給しています。
この部分に普通ならあるべき?のデカップリングコンデンサが付いていませんが、電源投入時の過度状態で600Vを越えてしまうので電解コンデンサが破裂する恐れがあるために(500V耐圧の電解コンデンサのサージ電圧は550Vなので)取り去りました。このB1直後の10K/10Wの後は差動回路が負荷ですから、基本的に信号電圧が発生しません。
従ってデカップリングコンデンサは無くても回路動作には支障がないのです。(デカップリングが必要な信号が発生しない)

動作時で約810Vだった+Bと−Bの電圧差は嵩上げ電圧と出力段電圧の上昇で約865Vにも達し、さらに危険度はアップ。
電圧チェックのためにテスターであたるときも不用意にショートさせないように細心の注意を払うことが肝要です。


改造後のハラワタ。それほど込み入っていないが高電圧には要注意!


基礎体力 

 最大出力(歪率5%)  22 W 
 ゲイン  29.7 dB
 高域カットオフ(-3dB)  65 KHz
 ダンピングファクター  6.17 (8Ω)
 残留ノイズ  0.26 mV 

ドライブ電圧を上げ、300Bのプレート入力(損失)も当初目論んでいた30W近くまで引き上げた(27.3→29.7W)結果、歪率5%での出力は以前の15Wから22Wと約50%増のパワーを得ることが出来ました。(歪率10%では28Wの出力を確認。)

これだけ出れば拙宅のSPでパワー不足を感じることは無いし、公称50WのOPT F2021は50Hzまでフラットに22W、それ以下はちょっと下がりますが20Hzまで正弦波が崩れることなく21Wが得られています。

と言うことで、本機はパワーバンドも全帯域でほぼフラットとなっています。
しかし、初段のゲインが上がってしまったために残留ノイズも弱冠ながら増えてしまいました。

歪率カーブは以前と殆ど変わりなく、100Hz、1KHz、10KHz共に非常に良く揃っていて出力が増えた分が余裕に映ります。


■ 雑感

昨年(’06)10月始めから改造に取り組んでいたのですが、しばらくの間このアンプは裏返しになったままでなかなか進まずに1ヶ月が過ぎてしまいました。回路図と向き合っても脳内シミュレーターがなかなか答えを見つけられず(というか呆けが進行中(^^;)、ハンダこてに火を入れても周囲の空気を無駄に暖めるだけの時間がやたら長かった気がします。

とにかく扱う電圧が高いし、嵩上げ電源だし、ヒーターバイアスも安全な値を考えなければいけないし、直結だし、直熱管だし、定電流動作だし、....DCサーボによりバランス保っている回路を一寸でも弄るとその他も合わせて変更しなければなりません。と、云ってる間に1ヶ月半経過してしまい...。本機はこういう事柄で手を付けにくく、亀の如く進むのが遅かったのでした。

最終的に音質は全く変わっていません。というか、私の駄耳では変化を感知出来ませんでした。
今回の改良をやり遂げて各部ともより適正な動作になったし、ほぼ計算値の出力が得られたので、充分満足出来る結果です。
歪率カーブが100Hz、1KHz、10KHzと揃っている事実はどの帯域でも同じ動作をしていることの証明であり、全段直結差動回路の優秀性を示すものです。

ひとつだけ私的に気に入らないのは6〜8dBのオーバーオールNFBをかけられるくらいのゲインが余っていることと、SRPPの出力インピーダンスを下げきれなかった事です。
ループ帰還は今の私には無用ですので、気が向いたらオーバーオールではなくて何処かに局部帰還を施して初段のゲインを下げ、インピーダンスを下げて残留ノイズと高域特性の追い込みでもしたいと思いますが、やるとしても2年先くらいかも
(^^;

 


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Last update 5-Feb-2010