EL34(T)全段直結差動PP  since May 2003 

* Rev.2 完成!(^^;)!

  
 
何気なく線材を見てたらオリンピックカラーだった。 2008年北京五輪記念。


 Rev. 2 Virtual STC Ver. 4 ?  since Jan 2008 


  解体→塗装剥離→部品配置確認  PT、CH はTANGOからLUXへ変更、OPTはかつてのOY15に戻し、統一感が出てスタイリッシュ?

 
  下地処理(ペーパーがけ)→再塗装、前回の様な白系だとシャ−シの高さが強調されるので
今回は黒のハンマーフィニッシュにしてみた。

 


全段直結 Evolution 〜  

全段直結差動PPは10年以上に渡り拙作アンプの基本スタイルで、その音質は安心出来る確かさがあります。
これまではOPTを含んだループNFBを避けてきたので、通常は無帰還のままでDFは2〜4程度でした。

以前の(Rev.1)このアンプは初段に5極管を使いながらも次段のカソードフォロワー(3極管)と一体で出力管を低インピーダンスドライブする 超3極管接続Ver.4 を採用していましたが、実験レベルのバラック配線のまま既に数年が経過していたので、実用機としてまともな?配線をするため漸く化粧直しとなりました。(かなり遅い(^^;)ついでに見た目に高さの違う凸凹でアンバランスな組み合わせのトランス類も変更する事にしたので、この期にちょっと毛色を変えて外観だけでなく回路にも変更を加える事にしました。

今度の回路は初段にちゃんと5極管動作をさせてゲインを稼ぎ、何を血迷ったか?そのゲインでオーバーオールの帰還をかける事にしたのです。
さて、やっと普通のまっとうなアンプの仲間入りか?と思いきや、やっぱり私の作るアンプは変態なのです(^^;
もちろん全段直結は踏襲していて、尚かつ全段差動に変わりはないのですが、初段の5極管動作によって直流安定度が悪化するのを防ぐための工夫を施します。

出力段の設計は旧Rev.1と変わりませんのでこちらを参照下さい。

ステップ1

超3極管接続Ver.4 では初段・カソフォロ段が一体となって3極管動作する為、直結でもDC安定度は良好でした。しかし、今度は5極管動作をさせるので次段は単なるカソードフォロワーになり、これまでの 超3極管接続Ver.4 の様な安定度は望めません。
拙作の300B差動PP6L6CSPPPのようにDCバランスサーボを採用すれば万全ですが、本機はシンプルさを身上としているため新たな能動素子を付加せずに単純な手法で済ませることにしました。

先ずは直結PPアンプに於けるDCバランスを向上させるための重要なポイント。

ヒーター電源を安定化してしまえば良いのですが、温度によって抵抗値の変動が著しいヒーターには各球に同じ電圧を並列に供給すると各球のヒーターの抵抗値のバラツキでそれぞれの電流が微妙にバラツキます。これは定電圧電源だとしても同じ事が起こりますので理想的にはそれぞれの球を定電流とすることです。しかし、全ての球を定電流化するのは相当の物量投入が必要ですので、本機では差動プッシュプルの上下の球同士でヒーターを直列にしています(双5極管6BN11は内部で直列)。こうすればヒーター電圧が変動しても上下のヒーター電流が同じなので上下のバランス変動を少なく抑えることが出来ます。

余談ですが、12AX7や12AU7等の双3極管のヒーターは並列の6.3Vと直列の12.6Vで点火出来ますが、12.6Vで点火した方がユニット間のバラツキが少なくなります。その理由ですが、それぞれのユニットのヒーターの長さが製造工程でばらついていると同じ電圧をかけても電流が同じにならないので、それぞれのユニットでヒーター単位長あたりの熱量に違いが出来ます。一方で直列に点火した場合は抵抗値が同じ材質のヒーターである限り長さが違っていても両ユニットの電流が等しくなるため、ヒーター単位長あたりの熱量が等しくなるのでエミッションのバラツキが少なくなると言う訳です。

ステップ2

真空管ですのでヒートアップするまでは多少のドリフトには目を瞑らないといけませんが、3極管による2段直結ならステップ1だけの対策でも結構な安定動作をしてくれます(もちろん多少のエージングは必要)が、しかし、初段が5極管動作だとバランス監視用メーターの針が動作中に右や左へふらーと移動してしまいます。シャーシー前面に取り付けたこのメーターは出力管カソードに入れた電流検出抵抗の電流差をフルスケール±10mAの範囲で示します。±10mA程度のアンバランス電流だと定インダクタンス型のOPTを使えばこれでもなんとか実用になりそうですが、僅か1.9mAのアンバランス電流しか許容してくれないOY-15-5Kでは失格です。

仮組みして暫く安定度を見ていましたが、やはり5極管動作にはDCサーボでも付けなければドリフトは収まりそうもありません。
しかし、DCサーボを組んでしまうとせっかくシャーシー前面に2個取り付けたメーターとVRががまるで無意味になってしまうので、しばし悩む事に...。そこでなんとか実用に耐えるような方法は無いものかとを思案して浮かんだのが、DCレベルで超3極管接続Ver.4 を動作させ、AC信号に対しては5極管動作させると言うアイデアです。これはある種のDCサーボであり、名付けるとすればバーチャルSTC V4(仮想超3極管接続Ver.4)と言ったところ...かな(^^;

この方法なら直流レベルで以前(Rev.1)と同じ動作をするため、音楽再生中に行ったり来たりフラフラすることはありません。しかし、8mAまでアンバランス電流を許容してくれる以前のCRD-5ならこの程度で充分なのですが、OY-15-5Kにはもう少し安定度が欲しい感じです。

ステップ3

通常、初段プレートへの電源供給はB+から負荷抵抗を介して行われますが、もうひとつ上の安定性を狙いブリーダーを付けることにしました。回路図のとおり、B電源からは200KΩ、アース側へ100KΩの2つの抵抗で初段のプレートを挟み、この合成抵抗(66.7KΩ)を初段の負荷としています。

負荷抵抗が弱冠小さくなったことによりゲインも少し下がりますが、電源投入時の初段への過電圧防止にもなるという歓迎される副作用があります。(ゲインを維持したければ、合成抵抗が以前と同じくなるように調整すれば良いです。)
しかし、肝心の安定度が向上したかと言うとそれ程の効果は無く、劇的に安定する訳ではありません。
まあ
”無いよりはマシ”程度だと思って下さい。(それよりも電源投入時の過電圧防止効果が大きい(^^;)

せっかくバランス監視用メーターを備え、いつでも調整出来るようにとVRにもツマミを奢ってメーター直下に配置したので、これで予定通りに『気が付いたときに調整すれば良し!』と言うことで全然オッケーなのです(^^;  (...とハイレベルな妥協点を見つけたことにして強引に結論づけます(^^;)


回路図

初段は変わらず双5極管の6BN11、次段のカソードフォロワーは6FQ7から変更して初段と同じ6BN11の3結です。
別に6FQ7でなんの問題も無かったのですが、ルックス的にバランスが悪いので6SN7にしょうかと思い、ソケット穴を予定どおりに広げたつもりが...ちょっとばかりサイズを間違ってしまい、どうしようかと悩んだ末、なんとか誤魔化しが可能なソケットサイズがコンパクトロンの外径という変則的な結果になりました。(これには複雑な事情が...)
6SN7
6FQ7に較べてヒーター構造の違いで2ユニットのバラツキが気にりますが、カソフォロでは殆どというかまるで問題にならないので実際こは関係ないのですが、そのリスクが少なくバイアスが浅い6BN11の3結がベストだろうと半ばヤケクソで同じ球を4本並べる事にしました。もちろん6BN11も両ユニットの揃った球を初段(5結)に使いたいので、バランス不良やマイクロフォニックの選別から弾かれた球を救う(有効利用)為にもこの方が良いのです。6BN11の代替球としては同じコンパクトロンの6J11が使えます。ちなみに6BN116J11は全く同じ特性の球ですが、ベースのpinアサインが違いますのでご注意!

5極管を3結にするにはスクリーン(G2)のみをプレートに接続してサプレッサ(G3)はカソードに接続する例が多いですが、サプレッサが管内でカソードに接続されていない球の場合はスクリーンと一緒にプレートに接続する方が電極タッチなどのトラブルを避ける意味でも得策です。
ビーム管ではないEL34も本来はこれに当てはまりますが、他のビーム出力管等と差し換えることを考慮するとG3は(1番ピン)はカソード(8番ピン)に接続しておくのが無難です。但し、本機では1番ピンの電位が120V付近になるのでベースが金属で覆われたKT−886550では感電する可能性が有るので要注意です!(絶縁テープ等を巻いて感電対策するか、『触るな危険!』とでも注意書きでも貼りましょう(^^;)

初段6BN11差動にはこの球の欠点であるヒーターハムを退治するために下側入力にハム・キャンセラー(*HC)を追加して、さらにNFBを戻す為の100Ωを入れています。スクリーン電圧に適当な電位を供給するのと音声(AC)信号を除くために2段目のカソードから20KΩを介して100μFでローパスフィルターを形成、ここでの低域ポールは約0.8Hzで、カソフォロ段の負荷抵抗は30KΩと20KΩの合成で実質12KΩとなりますが、ドライブには問題ありません。

かつてのOPTだったOY-15-5KHPは断線してしまったので、以前6L6超3結差動アンプに使っていたOY-15-5Kを載せていますが、電源トランス(S-1757)共々過去に所有していた LUXKIT A3500 より取り外したものです。

 


電源回路

電源トランスが TANGO ST-350 から LUX S-1757 へと変更されていますが、殆ど似たような捲線構成なので大きな変更はありません。(但し、元々6.3V0.5Aと6.3V3Aの2種がタップで繋がっていたのをそれぞれ別々で使える様に分離する少改造を施してあります。)
ヒーターの供給はEL34の上下ペアを直列にして12.6V点火したのと、6BN11用にトランス(ノグチPM623W)を追加しています。

写真のとおり電源トランスの隣には3個目のOY-15が載っていますが、実は1次捲き線が断線したジャンクです。今回は見た目の統一感を出すためにシャーシに載せましたが、かろうじて生き残っていたB2-SG2間捲線を嵩上げの下側電源(102V)のチョークとして流用しています。上側電源のチョークには別にTANGO 1H400をシャーシー内部に取り付けました。


基礎体力 ( VALVE ART EL34 )

 ノンクリップ最大出力  17.1 W
 最大出力(5%歪み)  18.0 W
 ゲイン  20 dB
 オープン・ゲイン  32 dB
 高域カットオフ (-3dB)  100KHz
 ダンピングファクター  13.3(8Ω)
 残留ノイズ  0.18 mV

初段の動作を5極管にしたことによって無帰還でのゲインはステップ2まで34dB(約50倍)でしたが、ステップ3で初段負荷抵抗値が100KΩから66.6KΩに下がったことにより約2dB減って32dBになりました。
アンプとしての仕上がりゲインを20dBにしたかったのでNF量は12dBになっています。
ゲインが減ったぶん帰還量も減り、ステップ2では19近くあったDFも13.3に下がりましたが、10以上のDFではそれが13だろうが20だろうが大した違いではありません。

出力段の動作は変更していないので最大出力はほぼ18Wで以前と変わりありません。
残留ノイズはハムキャンセラーのおかげで低いレベルに抑えることが出来ましたので以前のRev.1から比べると雲泥の差です。


位相補正無しの10KHz方形波応答。この時の高域カットオフは150KHz。


最終的に決定した位相補償は初段P-P間に入れた68pFで高域カットオフは100KHzとなり、方形波応答もキレイ。


負荷に1μFのコンデンサのみの方形波応答波形。決して発振に陥ることはない。


無帰還での周波数特性は位相補正C(68pF)により5KHzあたりから下降線を描き緩やかに減衰。


100Hzと1KHzは全く同じと言って良いほど近いカーブだが、10KHzは位相補正のせいで弱冠NFBが浅いために100Hzや1KHzと同じにはならない。

 

ハラワタ公開。 

Rev1ではとても人様に見せられる状態ではなかった内部配線、電源トランスの上方に位置しているのは初段用定電流回路。

 


■ 雑感

トランスの見た目を揃える為にLUXで統一し、チョークまでもOY-15を載せてしまいましたが、廃物利用とは言え本来のチョーク1H400をシャーシ内部に取り付けたのでスペース効率は良くありません。どうせなら、OY-15のケースだけ利用して中に1H400を仕込んでしまえばスマートでした。

弁当箱シャーシの外観に少しでも高級感を持たせるためにサイドウッドも奢りました。
安物のアガチス材ですが、オイル仕上げとすることで結構それなりに見えます。
でも、このシャ−シとトランスの配色ならば赤系の色にした方が良かったかなと思ったりして...。

メーターの裏には白色LEDを取り付け、その丸い頭をヤスリで削ってフラットにすることにより光を拡散させています。ちなみに青く光っているのは元々メーター自身が青いプラスチックで出来ているからです。

自分の作品としては珍しいオーバーオールNFBを施した、しかもどちらかというと高帰還アンプですが、時定数の少ない直結アンプはオペアンプ風の積分補償が効いて容量負荷にも安定です。自分の感覚ではNFBを施したアンプの音質は艶っぽくなるけれども鮮度が落ちる傾向がありましたが、シンプルな2段直結のおかげか、それとも自分の耳が鈍くなったのか?鮮度を保った音質のままで諸特性も満足のいく仕上がりとなりました。13.3とダンピングファクターが大きいので低能率で重いウーハーでも力強くドライブ出来ます。

実はこのアンプは拙宅のメインSPではなく、サブのPioneer S-955を意識して製作しました(SPのページを参照)。
ブックシェエルフタイプのエンクロージャーに振動板質量の比較的大きなウーハーを備えたSPではやはり、半導体アンプか本機の様なダンピングファクターの大きな高帰還アンプでこそ本領発揮するように思います。

アンプの直流安定度に関して人それぞれ意見が異なることと思いますが、自作アンプでは自分の責任ですので許容範囲は個人の自由です。(もちろん考え方次第ですけど...)このアンプは普通のアンプよりはドリフトが多いかも知れません(厳密に比較したことがないので何とも言えません)。しかし常にメーターで確認出来るのと即座に調整出来るVRツマミを備えているので気になる時に調整すれば良いのです(人間サーボ(^^;)。Rev.1の時からドリフトを見てきましたが、ある程度エージングが進んだ後は調整を繰り返す必要はありません。電源投入直後こそズレていますが、暖まるといつもの場所(センター)に落ち着きますし、四六時中回す必要があるほどドリフトはしないのが実態です。普段は忘れた頃に調整する程度で、以外と安定しています。
但し、メーター無しで長期間放置出来るほど無頓着とは行かないところが直結アンプ、メーターがあると精神衛生上も安心?出来ます(^^;

これでも許容出来ない人はDCバランスサーボを備えるか、直結を止めるしかありません。

本機の回路は簡単にDCバランスサーボに変更可能ですので、調整と言う行為がご自分のポリシーに反する人はDCバランスサーボをお奨めします。(6L6CSPP300B差動PPを参考にして下さい)



※旧 Rev.1(May. 03)こちら 

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Last update 23-Feb-2009