EL34 CSPP (i) since May 2024 |
改造ネタですが、回路は全く違うので久々の新作とも言えます。
全段差動PPアンプの出力が少しばかり物足りないとの友人からの相談があり、それではと言うことでCSPPへと大幅に回路を変更しました。
CSPPに仕立てるにはちょっと問題ありのEL34ですが、本機はB電圧が低いので目を瞑ります...。
■ コンセプト
写真を見て気付いた方もいると思いますが、元々はぺるけさんによるリアル版Building My Very First Tube Amp講座の全段差動PPがベースになっています。
出力トランス FE-25-8 だけはCSPPには使えないので、旧TANGOのCRD-5に変更しています。
その他の主要部品、パワートランスPH-185, EL-34, 6SN7はそのまま再利用することにしました。
■ 回路について
前身は 2SK30ATM と 6SN7 の差動2段でドライブするEL34の3結A級差動PPでしたが、同じ素子を利用して3結では無く5極管ネイティブ動作のCSPPに変更します。
EL34となると巷のPPアンプでは片ch 30〜50W くらい出るのが普通ですが、ぺるけさんの原回路が3結でA級差動プッシュプル動作の為に出力は10W以下と控えめ。
それ故に元々電源容量が大きくありません。
今回の変更でCSPPのAB級プッシュプル動作になりますが、出力は片チャンネル辺り15Wも出れば充分でしょう。
電源も含めて大幅に変更になりますが、拙作の47CSPPとほぼ同じ回路構成になりました。
初段のFETには2SK79を使いたかったのですが、既に入手困難ですので今回は2SK30ATMをパラレル接続の差動としてgmを稼ぎ、必要なゲインを確保しました。
もっとgmの高い2SK117とか2SK170を使う手もありますが、直流安定度がトレードオフになるので2SK30ATMのパラレルは音質も含めて妥当な選択肢だと思っています。直結回路とするためには直流安定度を考えると2段増幅構成の方が有利です。
パラレルとした初段差動2SK30ATMに2SC2752をカスケード接続し6SN7をアクティブ負荷としてEL34をドライブしています。初段のFETの実装ですが、実際には差動上下ペア同士で熱結合したものを端子版の表裏でパラレル接続しています。
初段のみならずカスケードのペア 2SC2752 もヒートシンクにて熱結合が必要です。電源回路で各真空管へのヒーターの結線はぺるけさんマニュアルのオリジナルのまま利用しています。
B電源は出力段を200V定電圧回路で嵩上げ。 図中のツェナーダイオードのシンボルは1個ですが、RD51Fを4本直列にしています。
オリジナルではシリコンダイオード5本で作られていた初段差動の定電流駆動用負電源(−3.6V)ですが、定電流回路をバイポーラトランジスタで構成した為に以前は使われていなかった5V2A巻線から倍電圧整流で-B(−12V) を供給しています。
その倍電圧整流回路の中点(-6V)からは電源スイッチのLEDを点灯するようにしています。
■ 基礎体力 (諸特性)
最大出力 20 W オープンゲイン 28 dB クローズドゲイン 20 dB 高域カットオフ (-3dB) 70 KHz ダンピングファクター 10 残留ノイズ 0.1 mV 出力は思った以上に高出力が得られました。
プレート電圧330V程度の軽い動作ですが、やはり5極管によるAB級PPの出力効率から得られる大きなメリットです。
ゲインはやや控えめですが、特性は申し分なく、ダンピングファクターも充分な値で全段差動PPに較べて見劣る箇所はありません。
右の写真は内部の様子です。→
オリジナルでは初段差動アンプユニットのラグ板の配置が前面のスイッチとボリュームの壁面に平行に取り付けられていました。(いわゆる縦=垂直)
今回の変更では直結回路故に必須となる直流安定度を得る為に半導体の温度変化に対して熱平衡を考慮する必要があり、シャーシー上面と平行になるように取付サポートを張り直しています。(いわゆる横=水平)
■ 雑感
最初に問題有りと書いたEL34ですが、それはヒーター・カソード間耐圧がスペックでは100Vでしかないことです。
カソード電位が出力の半分で振られるCSPPには絶縁劣化(リーク)のリスクから積極的にお奨め出来ない出力管なのです。
しかし、同じEL34でもメーカーによって作りは同じではないし、全部が全部スペックどおりに耐圧が低いとは限りません。
今回のCSPPへの変更に際し出力管を変更することも考えましたが、既に中古状態のEL34をそのまま使うことで出力は欲張らずに電源電圧を抑えてリスクを軽減する方向で行くことにしました。
巷に良く或るEL34PPアンプでは Ep=480V くらいの動作電圧ですが、本機では330Vの動作ですのでリスクは半分程度だと考えられます。また、改造前のアンプでは既に6SN7が劣化しており、その音質も既にボケ気味でした。
4本のEL34は問題無かったのですが、本作調整時に2本のオリジナルの6SN7は直流安定度が得られなかったので使用不可、→廃棄交換となりました。手持ち在庫に6SN7が無かった為に写真ではGTソケットからMTソケットに変換するアダプターを介してMT管の6CG7を載せています。
電気的特性は6SN7と6CG7,6FQ7は同じですので動作には問題ありません。
但し、直結回路故に2つのユニットは揃っている必要があるのでバランスが調整出来ない場合は選別が必要になります。可能な限り前作の部品と配置を踏襲して楽に改造しようと思ってたのですが、ヒーターとかVRの入力配線以外はバラす手間もあったのと、殆どの配線をやり直したので製作の手間は下手すりゃ新作よりも大変だったのかも。
さて、
出来上がったこのアンプの音質は結合コンデンサを廃した直結CSPPそのもの。 音に芯があり明朗闊達、期待を裏切らないパワフルさをも兼ね備えています。
全段差動と同じく全段プッシュプル動作により音に立体的な奥行き感があり、C結合とは一線を画す透明感と表現力が持ち味です。オーナーの友人もその音質に100%以上?満足してくれたようです。
アンプで音は変わらないとか言っている人がいたら是非聴かせてあげたい(藁)。
Last update 22-May-2024