LUX MQ80 〜 Modified Type-A

MQ80は既にCSPPアンプとして紹介済ですが、MQ80(改)として音質改善のバリエーションとオリジナルと比較の為に 分離して再掲します。

改造のバリエーションのひとつType-Aでは初段6267の動作を3極管接続にしてオール3極管アンプとし、ムラード型位相反転に定電流回路を挿入し 差動型位相反転回路の精度を高めたものです。

さらに段間時定数の見直しにより低域特性も改善しています。

オリジナルの回路は  LUX MQ80 を参照して下さい。


 回路変更 Type-A Mar. 2010 【初段3結化&2段目定電流回路挿入】


■ 回路変更にあたって

MQ80 オリジナル回路に致命的な問題があるわけではありませんが、本機の特徴でもあるムラード型位相反転回路と22dBもの負帰還量は単純に私の趣味に合いません。
ある意味これがLUXトーンを演出しているとも考えられるので、ニュートラルな音質を目指しての変更です。

オリジナルは初段が 6267(EF86) の5極管動作になっていますが、せっかく出力管が3極管なので3結に変更して全段3極管で統一することにします。
当初は初段 6267(EF86) 6DJ8 あたりの双3極管の差動回路に変更して差動2段でドライブする全段PPにしようかと思ったのですが、プリント基板パターンを見るとかなりの大幅改造が必要で、そのままプリント基板を流用するのにはかな〜り無理があるのが判りました。第一段階なので球の変更はあっさりあきらめてそのままでいくことにしました。


 ■ 回路図

アンプを構成する使用球を変更しないので、初段は簡単な変更を施しスクリーングリッドをプレートに繋いで3極管接続にします。
これにて約15dBゲインが下がりますが、NFが22dBもかかっているので、こちらも いっしょに減らすのが目的でもあります。
 6267(EF86) の3極管接続ではμが約38の中増幅率となり、ローノイズ特性と相まって初段として安心して使えます。
プレート抵抗が87KΩと半端な値なのはオリジナル回路のG2とPをジャンパーにて繋ぎ、0.1μを取り去っただけなので元よりG2へ供給していた680KΩとプレート抵抗100KΩがパラになった 合成抵抗値である為です。

2段目のムラード型位相反転回路は基本的に差動増幅回路ではあるけれども不平衡入力であるし、尚かつ共通カソード抵抗値が小さい為に差動の効果は少なく、否が応にもアンバランスが出てしまいます。それ故に上下でプレートの抵抗値を変えてバランスをとるのがムラード回路の常套手段であり、本機でもご多分に漏れずファクトリーにて調整の跡が伺えます。それどころかムラード回路ではグリッド電位も上下G−G間で10V近く差が出てしまい、現状ではAC・DCともに理想的な対称動作とは言えません。
これらが音質面で不利になっているかと云えば 必ずしもそうだとは云えませんが、贔屓目に見ても有利に作用しているとは言えません。

今回の改造ではまず51KΩ・56KΩと上下で違うプレート抵抗を同じ51KΩに揃え、共通カソード抵抗15KΩを定電流回路に置き換えて本来あるべき差動増幅動作に近づけ、高抵抗とコンデンサーのリークに因るグリッド電位差を対策するためにG−G間の抵抗値を半分(1M → 500K)にする代わりにコンデンサーの容量を倍(0.47 → 1μF)にしてこの段の時定数をキープ、結果G−G間電位差を半分以下に抑えました。

回路図中の青字青線で示した部分が変更・追加した箇所です。

トランジスタ 2SC2336 による定電流回路はベース電圧を決めるツェナー RD6.8EB への電源供給が共通カソードから100KΩにて供給していますが、本来、共通カソードからバイアスを与えるのならばCRD等を使う、或いは別の電源から引くのが セオリーですが、今回は配線の都合で処理が簡単な共通カソードから採っています。(共通カソード電位が高いのでここに使えるような耐圧の高いCRDがないのも理由のひとつ)

しかし、今回のように100KΩ等の抵抗を使った場合はその抵抗値で定電流回路のインピーダンスを制限してしまうのでそれを念頭に置いて動作を考えることが重要です。
オリジナルの共通カソード抵抗が15KΩだったことに較べれば 6AQ8 のようなμの大きな球なら定電流回路が100KΩにインピーダンスが制限されても必要にして充分な性能を発揮します。さらにここでは定電流回路と並列にツェナー RD51B を3個直列に接続していますが、これは電源投入後のウォームアップ時に共通カソードの電位がトランジスタの耐圧(180V)を超えてしまうので、これを制限する為に必須になっています。もしも、定電流回路ではなく共通カソード抵抗に100KΩを使う場合は、ここで750Vの電圧が食われるので−650Vの電源を用意しなければなりません。

カソードフォロワーを含む出力段には変更を加えていませんが、低域を制限していた段間のカップリングコンデンサ0.022μFを10倍の0.22μFに変更しています。トータルゲインが下がったことで当然負帰還量も減るので NFR 3.3K → 2.3K にし、付随する位相補償コンデンサも 330P → 200Pへと変更。最終的なNFBは12dBに落ち着きました。電源に大幅な変更は有りませんが、初段を3結として電流が増えた為に不足するB3の供給電圧を上げるべく、ドロップ抵抗を調整(180KΩ → 100KΩ)しています。


■ 特性

変更後の特性です。

 最大出力(歪率5%)  45 W
 オープン・ゲイン  34.6 dB
 クローズド・ゲイン  22.4 dB
 高域カットオフ (-3dB)  190 KHz
 ダンピングファクター  10(8Ω)
 残留ノイズ  0.15 mV

無帰還(オープン)、仕上がり(クローズド)ともにゲインは控えめになりました。
数値こそ以前の1/4ですが、ダンピングファクターはまだまだ充分に高い値です。

MQ80_DIST-2.PNG - 5,294BYTES

オーバーオールのNFB量を減らしたので中出力以上では歪率が若干上昇しましたが、低出力領域では改善されています。
以前は左右でだいぶ差のある測定結果でしたが、今回は特性のマシなR-chの出力管を使って両方のchを測定しました。
2本の 6336A のバイアス値はどちらも2つのユニット同士で10V程度バラついていますので、バランスの良い球で測定すればもっと良い特性が得られるものと思います。


MQ80_FREQ-2.PNG - 4,801BYTES

高域、低域共に改善していますが、特に高域カットオフはぐんと伸びて200KHzにも達する勢い。ほぼOPTの特性が出ていると思われます。


雑感

取り換えたカップリングコンデンサは容量変更に伴い当然ながらメーカーも違うので以前との音質差にこの影響も含まれているのは当たり前ですが、初段の3極管接続とムラード型位相反転回路の定電流化による動作の改善による音質は期待以上の効果があったように感じます。

LUXが設定した MQ80 6336A の動作点は Ep=250V、Ip=100mA が基準ですが、あまりの熱量にうんざり(-_-;
出力も音質にもなんら不都合はないので省エネも考慮してアイドリングを半分の 50mA にしました。
これで発熱はだいぶマシになりましたが、それでも真夏には遠慮したい熱量です。

低域も良く伸び、解像度も透明感も充分でありながら3極管らしいしなやかさが心地よい音楽を聴かせてくれます。
何ともじれったい感じのあったオリジナルトーンから脱却し、ニュートラルで見通しの良い音質へと変貌を遂げました。(自画自賛(^^;)



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Last update 21-Jan-2024