LUX MQ80 = CSPP Amplifier 〜 Repaired

かつて市場に出回ったマッキントッシュタイプCSPPアンプがマッキントッシュ以外にも存在したことは以外にもあまり知られていません。

LUXから1974年頃リリースされた MQ80(1974年10月発売 \169.000)を数年前に入手していたのでその性能と動作を探ってみます。(KIT版はKMQ80

他のLUXアンプでは A3000(1975年2月発売)がCSPPです。(完成品は MB3045 1976年7月発売)


■ 出力管は6336A

 6336A は大型の双3極管で元々シリーズレギュレーター用途であり、規格表を見てもアンプに使用するための参考データが載っていません。
プレートはジルコニウムコーティングのグラファイト製でプレートあたりの損失が30Wと大きく、両プレートで60Wともなるその発熱量は半端ではありません。
ガラス管は KT-88 等とほぼ同じ形状とサイズであり、KT-88 の最大プレート損失が35Wである事を考えると、60Wもの耐損失はグラファイトならではです。各電極はセラミックで支持されており、100Wクラスの送信管のようにとても堅牢な造りです。しかし、最大損失付近の動作時の熱量を想像すると、自然空冷でその熱を放出するだけで充分だとはとても思えないです(>_<)。

その特性はよく見るとあの 6C33C-B とほぼ近いと云うか、パラにして1本として見れば最大電流は凌駕してさえいます。

 

 RAYTHEON CK6336A  Russia 6C33C-B
 ヒーター電圧・電流   6.3V ・ 5A  6.3V ・ 6.6A
 プレート電圧   400V   450V 
 グリッド電圧   −300V   −150V 
 ヒーター・カソード間耐圧   ±300V  ±300V
 プレート損失   30W per Plate  60W 
 プレート電流   400mA per Plate  600mA 
 Gm  13.5 per Plate  28
 rp  200Ω per Plate  80Ω
 μ  2.7  2.2

LUXブランドには同じ 6336A を4本使ったOTLアンプ MQ36 がありましたが、かなりデリケートなアンプだった様です。

 MQ80 はOPTを用いることにより、6336A の最適負荷動作を狙ったアンプであり、ドライブしにくいCSPP出力段をムラード型の回路でドライブで出来ているのは OY-15-600P による低インピーダンス動作(150Ω)のおかげで、40Wの出力でもOPTの1次側電圧が77Vrms程度で済むからです。
これが A3000 の場合には60W出力で動作インピーダンスが900Ω(GX100-3.6K)なので1次側電圧が232Vrmsにもなってしまうのとは大きな違いです。

 6L6CSPP(+P) でも書いていますが、50%のKNFで相殺されるドライブ電圧とHK耐圧の観点からもCSPPには内部抵抗の低いレギュレーター管が有利です。 MQ80 のように出力40Wでも1次インピーダンスが150Ωの場合は拙作 6S19P CSPP(625Ω/8W)の場合の1次電圧70Vと大差ないのです。つまりOPTの1次インピーダンスが低ければ、当然の如く変圧比が小さくなるのでドライブ電圧が低くて済む訳です。


■ LUX 原回路

LUXの MQ80 原回路をみるとOPTが普通ではない事が解ります。
OY-15 とは言え、1次インピーダンスが600Ω(シリーズに相当、CSPPでは1/4の150Ω)で《バイファイラ捲き》ともなれば外観は同じでも全くの別物と言って良いでしょう。 OY-15-600P は当時のカタログによればトランス自体の周波数特性は200KHzまで延びているとのこと。

初段 6267(EF86)、ムラード型位相反転に 6AQ8(ECC85) を用い、12BH7A のカソードフォロワーでドライブするオーソドックスな回路で、ドライブ段へのブートストラップはかかっていません。

 6336A の動作点は Ep=250V、Ip=100mA となっており、アイドリング状態で1本あたり50W、ステレオアンプですので2本で100Wもの発熱はやはり相当なものです。 6C33C-B よりはマシですが、やはり夏には遠慮したいアンプです(^^;;;

電源トランスは 6336A 用途だけに6.3V・5Aが2回路あり、ドライブ段のB電源やC電源のために普通より沢山の巻線が用意されています。
6336A にはヒーター・ウォームアップに関して指定があり、エミッションが安定するまでに30秒以上ヒーターのみの通電が必要となっており、その為にB電源を遅らせて投入するための回路が備えられています。

LUXの管球アンプを修理する際にいつも気になるのはバイアス調整用のVRがプアなことですが、MQ80 には24mmの立派なVRが備えられており、他の多くのLUXブランドパワーアンプに見られる16mmVRや小さな半固定で無いことが、このアンプの安定性に寄与しています。


■ 特性

LUXのオリジナルのままでアンプの特性を測ってみました。

 最大出力(ノンクリップ)  38 W
 最大出力(歪率5%)  42 W
 ゲイン  27.6 dB
 高域カットオフ (-3dB)  110 KHz
 ダンピングファクター  40(8Ω)
 残留ノイズ  0.26 mV

現在の基準で見ても優秀な特性です。ダンピングファクターは40と管球アンプの常識では考えられないほどに大きな値を示していますが、低rp3極管を適正な負荷線で動作させていることと、ブートストラップを用いていないCSPPによる50%のKNF、さらには22dBのオーバーオールNFBによる相乗効果 の産物です。

L-chとR-chでだいぶ差のある結果ですが、ジャンクからの復活かつ出力段のバイアス調整をしただけなので何とも説明のしようがありません。
どちらも残留ノイズは0.2mV程度で優秀なのですが小出力で歪みに差があるし、L-chの出力管 6336A は大きくバランスが崩れており、エミ減が疑われます。
それでも、両ch共に決して悪いデータでは無く、フルパワーに至るまでに低い歪率をキープしているのは立派と言うほかありません(^^;

周波数特性も高域カットオフが110KHzと申し分ないものです。


雑感

音質はこれまでに聴いたLUXブランドの管球アンプ(ノーマル状態)の中ではベストと思います。(私の好みに一番近いという意味です(^^;)
CSPPのキレの良さに3極管アンプらしいしなやかさがあり、22dBものNFBが掛かっているのですが、全帯域のバランスに不自然さが無く、一聴して『まともな音』であることが解ります。

この MQ80 は06年にジャンクとして入手していたもので、入手時の外観は風雨に晒されていたと確信出来るほどに汚れとサビにまみれており、それはもう酷いものでした。
幸いにも球とOPTは生きておりましたが、なんと、電源トランスがレイヤー(層間)ショートを起こしており、正常なトランスに換装する必要がありましたが、漸くこの8月《春日無線変圧器》に代替のトランスを特注してこの度の復活となりました。

さて、レイヤーショートを起こしていたのは500Vセンタータップ付き巻線(回路図中は250V 40mAと表記)で、ドライバー段の嵩上げ電圧とカソフォロ段の負バイアスに利用されていたのですが、電流容量が40mAしかないこの巻線は300VAくらいあるトランス全体の容量からすればほんの僅かです。逆にそれが災いしてこの巻線のみ過電流の状況下でも1次のフューズが切れ ず、その結果レイヤーショートに陥ったものと推測出来ます。

此処ではセンタータップをゼロ電位としてブリッジ整流にて正と負を得ていますが、とりあえずテスターでのチェックでは不良のダイオードは見つかりませんでしたのでレイヤーショートの原因は不明です。
しかしながら、ダイオード(RA-1B)の逆耐圧が800Vと余裕がないことも気になったので1500V耐圧のダイオードに変更しました。

せっかく特注して作ったトランスが再びレイヤーショートで焼けてしまうようなことがあったら悲しいですから...(^^;


↑OPTの塗装がボロボロでかつての名機も見るに忍びない。PTは春日に特注した新品。

特注電源トランスについて問い合わせがありましたので、以下に特注したトランスの仕様を掲載します。


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Last update 21-Jan-2024