CD Player の音質改善 May 2005.

※ 注意 ※ 

改造という行為によりメーカーの保証や製造責任が失われます。意味のわからない方は改造などに手を出してはいけません。

改造にはリスクが伴います。そのリスクを理解した上で行動して下さい。
万が一、失敗したとしても誰のせいでもありません、改造した本人に全ての責任がありますので覚悟して下さい。

(決して情報元のサイトや私にクレームなど出さないように(^^;)


デジタルオーディオの夢

70年代も後半だったと思いますが、SONYやDENONがPCMを提唱してからもうかれこれ30年近い歳月が経とうとしています。

まだ、CDプレイヤーが発売されていなかった頃、符号化された音楽信号を0と1で記録するデジタル録音は理論上劣化が無く、ダイナミックレンジとS/N比が90dBを越えると言う、従来のアナログ録音方式を大きく凌駕する正に夢のオーディオでした。

CDはキラキラ反射する12cmの円盤を非接触の光学式ピックアップで読みとる方式で、針が音溝をトレースする従来のアナログ・レコードプレイヤーの機械式に比べてものすごい技術革新に思えたものでした。

そして誰もが思ったのが、『デジタルだから、どのメーカーのどのCDプレイヤーで再生しても同じ音がするのだろう』でした。

この説が正しければオーディオ・マニアは悩まなくて済んだと思いますが、どっこい話は簡単ではなかった。
16bit/44.1KHzのフォーマットで録音され劣化しないハズのCDが再生するCDプレイヤーによってその音が違っていたのでした。

今でこそ、デジタルオーディオはその理論と応用技術が随分と進化し、1ビットPWMや圧縮技術により一般社会にローコストで高品質な音を提供出来る時代になりました。

確かに、CD等のデジタルオーディオの音質も進歩しました。しかしこれは全てデジタルのおかげでしょうか?
確かにデジタルフィルターによるオーバーサンプリングや非直線補間技術は開発されました。でも、これらの技術はよりスムーズなD/A変換が目的なのです。
デジタル技術が進歩したおかげでD/A変換のみならず、録音側で最も重要なA/D変換の技術も大きく進化しました。

結局デジタルとは言え、最後に我々の耳に届く音はアナログです。故にデジタルとアナログの変換がいかに大事であるか、言い換えればアナログがいい加減だとやはり良い音はしないのです。


■ CDPのアナログ

1985年頃だったと思いますが、近所のレコード店ではだんだんLPコーナーが縮小して、新譜の殆どがCDでしか店頭に置かれなくなってきました。
まだアナログレコードプレイヤーしか持っていなかった当時、どれでも同じ音がするであろう(と思いこんでいた)CDPをとある量販店の特価品コーナーで買い求めました。
それは日立製でたぶん定価でも2万円しないくらいの安いCDPであったことは覚えているのですが、型番までは流石に覚えていません。

初めてCDの音を自宅で体験したとき、無音部分の静かさや取り扱いの簡便さには新時代の到来を感じました。
安い買い物だった為に大きな期待はしていなかったのですが、流石に良い音だとは思えず、デジタルオーディオでは皆同じ音が出ると言う、希望的解釈はあっさりと崩れ去りました。

CDP黎明期はまだD/Aコンバーター(DAC)が高価だったこともあるでしょうが、その当時のエントリーモデルはDAC1個で左右のchを賄うものが普通だったし、海外モデルでは高級機でも14bit(DACはTDA-1540)製品が主流でした。今でこそ当たり前になりましたが、高級機になると左右独立DACになり、オーバーサンプリングなるデジタルフィルター搭載が当時の宣伝コピーでした。

さて、私が手に入れたそのCDPは特価品の安物ですから、故障や保証外のリスクなどは無視。当時の浅い知識と僅かな技術情報を頼りに早速分解チェックです。中身のD/AコンバーターらしきICとフィルター回路を見回すと1個のDAC出力をアナログ信号になってから左右に配分する回路のようです。当然、オーバーサンプリングの回路は搭載されておらず、たぶんアナログフィルターは5次くらいだったと思いますが、当時のCDPには7次チェビシェフとかバターワース等、急峻な特性のフィルターが使われていました。

アナログフィルターを通さなければ可聴範囲外のノイズが素通しになりますが、私のアンプは管球式ですので(20KHz以上の高周波を入力しても)影響はあまり無いだろうと早速フィルターをバイパスしてみました。すると音質は見事に改善し、デジタルの鮮度の良さが出るようになったのです(*^_^*)

しかし、オシロでアナログ波形を見てみるともう一つ問題が...。左右共通のDAC信号をLRに振り分ける為のスイッチングノイズが乗ってしまっています。その波形を見るとそれはもう酷いもので、音楽再生中のS/NはカタログのS/N比では無いことに気付きます。カタログで表示されるこれって無音部分(ミュート状態)と最大振幅部分(0dB信号)の比を表示しただけだったのです。実際のS/N比は50dBも怪しかったと思われる。

他にも当時はDACのグリッチノイズを除去する為にサンプル&ホールド回路を備えたCDPも沢山ありました。(デグリッチャーと呼ばれていた)
これとてサンプル&ホールドをするタイミングはDACのクロックと同じ周期なので、いやがおうにも高周波ノイズとしてアナログ回路に載ってしまいます。
何れもフィルターで除去すれば良いと言う考えだったのでしょうか、技術的にはそれで間違いではないのでしょうが、音質的には良いハズがありません。


■ 2台目のCDP

さて、だんだんCDPの知識が増えるに従い、流石に安物CDPでは満足出来なくなり、ちょっと奮発して中級機を買うことにしました。
発売当時、光伝送(アイソレーションしているような?)という触れ込みのVictorのXLZ-701を購入しました。このCDPは4倍オーバーサンプリングで左右独立DACと当時の先端とも言える内容を盛り込み、さらに光デバイスが云々というのが何とも魅力的に映ったものでした。

当時は大阪に住んでいたので日本橋の○ョー○ン本店に電話し、「実物を試聴出来るか?」と聴いたところ「出来る」との返事。早速出向いて試聴。ヘッドホンでしか聴かなかったもの、その時は宣伝コピーに完全に舞い上がっており、サッサとお買い上げして帰途についたのであります(^^;)

そんなわけで家に帰り着き、早速CDPを繋いでその音を聴いてみましたが、期待する音質ではなくガッカリ(T_T)、特に高域のシャリシャリしたところが全く気に入りませんでした。

翌日、販売店に電話をして別な機種に変更出来ないか交渉しましたが、「下取りとして引き取るのなら可能だが、一旦販売したものを無償で引き取っての交換は出来ない」と言うつれない返事。「もう2度と買ってやるもんか!」と思ったのは言うまでもありません。
おかげで1台目のCDPについで、全くの新品保証期間内にもかかわらず、改造への道を決断をしてしまったのでした。

先ずは敵を知ることから。XLZ-701の蓋を開けてじっくりとにらめっこ!。
デジフィルは何が付いていたのか覚えていませんが(DAC以後しか興味が無かった)、DACはPCM-56P(J)が左右独立しています。

87年当時、各社とも似たようなものでDACにはPCM-56Pが良く使われていました。DACやデジフィルに関してトラ技等の関連記事を読みあさりましたが、結論はアナログフィルターを如何にに軽いものにするか(出来るか)が高音質へのキーポイントだったのです。

1台目のCDPを改造した経験からフィルターを取り去ってしまう事はたやすい事でしたが、実物の基盤から起こした回路図を眺めているとI/V変換の入力にアナログスイッチ(FET)でフォトカップラーを経由した信号が接続されているのが気になりました。
これは代表的なPCM-56Pの回路例では付いていないものです。
回路を追うと、光アイソレートされた信号でI/V変換をスイッチングしている様に見えますが、いわゆるサンプル&ホールド回路ではありません。
結果的にはDACのクロックと同じ周期の信号が注入されるのでオシロで観測されるアナログ信号には高い周期のノイズが載っています。

私にはサンプル&ホールドではないこの回路の意図するところが理解出来ませんでした。わざわざフォトカップラーで光によるアイソレーションを実現していますが、クロック?信号でのスイッチング回路をI/V変換に接続しているのですから、好意的に見て新手のデグリッチャーが良いとこでしょう。しかし、私的にはどう見てもノイズ混入回路としか受け取れませんでしたので、あっさり取り払ってしまいました。
おかげでシャリシャリしていた音質もオシロで観測されるアナログ波形もスッキリと改善しました。

これは私の勝手な解釈ですが、メーカーの意図する差別化とか音色のコントロールがこういうカタチで行われていたのではないでしょうか?
当時はまだオーディオコンポーネントが売れる時代だったのです。


▼ 抵抗1本によるI/V変換

デグリッチャーやフィルター等の小細工だけでも結構満足出来る音質にはなったのですが、さらなる音質向上を目指し管球派ならではの手段としてアナログ回路を真空管で構成してしまう構想が頭を擡げました。その頃の市場には真空管カソードフォロワーで出力するCDPもUSA製(CAL)やら日本製(LUX)にも存在していましたのでなおさらやる気になったのは言うまでもありません。

当時のPCM-56Pを使ったCDPの構成を見るとPCM-56P自身に電流出力と電圧出力が存在している為、一般的にローコスト機種ではPCM-56P内蔵のI/V変換を使い、上位機種では外付けのオペアンプでI/V変換していましたし、高級機になるとディスクリートで組まれたものもありました。またPCM-56P自身にも【無印】・【Jランク】・【Kランク】がありました。

流石にDACを自作するのは無理ですので、可能な限りD/Aのアナログを自分で支配しようとすると、電流出力以後、すなわちI/V変換から自前で賄おうと考えたわけです。あわよくば全て真空管で構成してしまおうと...。

私の様なアマチュアにはI/V変換と言えばオペアンプがその模範例です。だからといって真空管版のオペアンプを作るのは大げさ過ぎるし、他に気の利いた回路アイデアは思い浮かびませんでした。PCM-56Pの電流出力は負(すなわち電流を吸い込む)なのでDACに直接真空管のカソード(グリッド接地で)を繋ぐ事も考えましたが、こちらはDACを壊してしまうのが怖くて実験に踏み切れず。それならば<<アクティブ素子では無く、単純な抵抗1本で電圧に変換出来るのでは?>>と実験したのが始まりでした。

DACの電流出力には2本のダイオードによる保護回路が内蔵されており、本来が電圧出力を考慮していないので、可能になる最大電圧は1.2Vp−p(0.4V rms)でしかありません。
しかし、ダイオードの非直線性やDACの電流源の非直線性による歪み率を考えるとその10分の1以下程度が実用領域と考えた方が良いです。
出力電圧を欲張らなければ、抵抗値を小さくする事により16bit理論値の96dBに近づけることが可能です。(PCM−56Pは16bit精度が出ているわけではありませんが、正弦波の観測ではデジタルフィルターの丸め誤差やアナログフィルターの効果などにより理論値を上回ることもあります。)

抵抗値はDACの種類によりそれぞれの最適値は違いますが、出力電圧が小さくてもMCカートリッジよりは遙かに大きく取れるし、後からアンプで増幅すれば良いことで、フォノ・イコライザーに比べれば容易い事です。 そして、真空管で増幅した後のその出力にライントランスを使えばフィルターを兼ねた低インピーダンス送り出しが出来ると言う1石2鳥がねらいでした。

抵抗1本によるI/V変換は単なる思いつきとは言え、”コロンブスの卵”的な発見でした。
おかげで個人的に好みに合わないオペアンプの音をシステムから排除することが出来たのです。

この時のCDP改造ネタは真空管6FQ7のSRPPでライン出力トランスNP−8をドライブするバッファーと合わせてMJ1991年2月号のサイドワインダーに掲載されました。(実際の改造・製作は88年です。)

この発表後、沢山の方々が追試をされたようで何件かの問い合わせもありました。
又は他誌にも飛び火したり、ついにはオーディオメーカーでさえも実際の製品に採用してしまいましたので、すっかり市民権を得たように思います。

いち自作マニアが提唱した抵抗I/V方式がデジタル・オーディオ界に一石ならぬ”抵抗1本”を投じたとすれば”オーディオ馬鹿”冥利に尽きるのであります(^^;)

何年も前からWeb上では抵抗の種類による音質の違いを実験されたり、SATRI−ICを応用されている先達もいます。
SATRI−ICにはこれまで縁がなく何ともコメント出来ませんが、抵抗I/Vにて各種抵抗を手持ちの範囲で実験してみると、やはり抵抗によって音の違いが判ります。抵抗I/Vにおいては大勢の方がDALEの巻線が良いと感じてる様ですし、私の実験でも手持ちの範囲ではベストと思いました。しかし、そんなに極端な差ではありませんのでDALEが絶対と言うことではありません。もしかすると巻線のインダクタンスがデジタルノイズ低減に作用した可能性だって充分に考えられます(無誘導巻でない場合)。他の意見に惑わされず自分の耳で確かめてから決定されるようお奨めします。(でもダメな抵抗はやっぱりダメです(^^;)のでやっぱDALEが無難かな...(^^;)

もう一つ、勘違いされると困りますので断っておきますが、抵抗I/V方式がオペアンプI/V方式より優れていると言っているわけではありません。
オペアンプと抵抗1本ではコスト的に見ると通常は抵抗にメリットがありますが、抵抗に有名ブランドものを使ったりすれば必ずしも安上がりとは言い切れませんし、音質的な優位性は一概には論じられません。
メリットはI/V変換にもう一つの選択肢が増えたことです。


■ 3台目のCDP

サイドワインダー(MJ)に投稿した90年、先の2台目は友人に譲っており、既に3台目のCDPになっていました。
88年当時、数十万円もするソニーやフィリップスの最高級機のDACとしてTDA1541A−S1と言う王冠マークの付いたスペシャルDAC(フィリップス製)が話題を振りまきましたが、約1年後にはなんと数万円の普及機に搭載されてしまいました。それが89年4月に発売されたNECのCD−816です。

CD−816には上位機(CD−10)もありましたが、TDA1541A−S12個4DAC)もついていて16倍オーバーサンプリング(相当)という基本内容は同じものでしたので、迷わず(改造する為に(^^;)こちらを購入です。

この構成でのDACは左右2chでの±差動出力が出来るので、これもI/V変換を抵抗1本にしてしまい、初段差動・次段SRPPで組んだ平衡ブリッジ回路に今度はパーマロイ・コアのライン出力トランスNP−216Nでフィルター兼バッファー(アンプ)を組みました。


※回路図は片チャンネルのみ表示

パーマロイ・コアのNP−216Nにしたのは冒険(*値段がカットコアの倍なので)でもありましたが、方形波の通過をNP−8(カットコア)と比べてみると一目瞭然です。最大出力電圧は大きく取れませんが、10KHzの方形波が綺麗に通るのには感心させられます。巻線構造にも違いがあるのかも知れませんがパーマロイ・コアの御利益でしょう。カット・コアのNP−8ではリンギングがあり、周波数を上げると次第に方形波のカタチが崩れてしまいます。

ライン出力トランスを使うことにより出力インピーダンスは1KΩ以下になり、プリアンプを使わなくても直接パワーアンプを駆動することが出来ます。


■ 4台目のCDP

CD−816(改)はローコスト故か、数年でピックアップやサーボ等の読みとり系にヘタリが出て、時折読みとり不能なCDや演奏途中でノイズが出たりするようになりました。

次の候補を物色していた95年、既にアルファー・プロセッシングを搭載したDENONDCD−S1とかS10が販売されていましたが、とにかく高価で欲しくても一般サラリーマンの小遣い程度では簡単に手が出せるものではありませんでした。そんなとき嬉しいことにS10をローコスト化したDCD−1650ALが出現しました。上位機種同様にアルファー・プロセッシングが一番のセールスポイントですが、なんとこれも上位機種と同じく当時最先端を行く20bitDACであるPCM1702個使った差動バランス構成なのでした。違いは電源分離とかコンストラクション等の差で基本的な性能は一緒です。

もちろん、これも改造して前機CD−816(改)で使っていた前出の真空管バッファーをそのまま利用して"アルファー・プロセッシング"を真空管で堪能と言うわけです。比較したことはありませんが、たぶんS10S1には無い暖かみのある音を再生出来ていたと思います。

その後、10年近く特に不満無く使ってきたDCD−1650AL(改)+真空管バッファーですが、とあるCDをかけたときに異変が...。

そのCDは低域(ベース)がたっぷり入ったJAZZでしたが、そのベースの音が歪んで中域にも混変調を起こし、ピアノまで歪んでしまいます。他のCDPで再生すると何の問題もなく綺麗に再生されているので、問題はDCD−1650AL(改)か真空管差動バッファーのどちらかです。
まさかCDPが悪いはずもなく、
原因は真空管差動バッファーに使っているライン出力トランスNP−216Nの飽和に因るものと判明しました。

どうも超低域ではコアボリュームの限界がより低い出力電圧で起こるので、1Vrms程度なら大丈夫と思いこんでいたバッファーの出力も超低域では不充分であることが判明しました。通常、CDPは2Vrms(0dB)の出力が標準ですが、1V以下になると流石にソースによってはゲイン不足に陥ります。パーマロイ・コアは飽和磁束密度が低いし、1次:2次間の変圧比が大きく直流重畳も出来るNP−216では当然ギャップがとってあるでしょうから1V以上の超低域出力は無理があるようです。


※回路図は片チャンネルのみ表示

手っ取り早くゲインを下げる為に(手っ取り早くもないが...)ブリッジ出力の上側の6FQ7を下側に移してパラ接続の定電流とし、差動出力に変更。

ゲインを下げれば当然改善しますが、せっかくのトランス出力なのに最大出力電圧が0.5V程度では通常1V程度の入力感度を持つパワーアンプを直接ドライブするには最大電圧が足りなくなり、CDの録音レベルが低いソースではゲイン不足になってしまいます。


トランスによるI/V変換

NP−216Nでの出力に限界を見てしまったし、真空管差動バッファーは途中何回か回路変更を重ねましたが既に15年以上も稼働しています。そんなおり、仲間のN氏が改造したDVDプレイヤーの音を聴いたところ、ちょっと半導体テイストが感じられるけどシャープな音像定位で、DCD−1650AL(改)+真空管差動バッファーにも決してひけをとらない音質に感心することしきり。これを機会にようやく重い腰を上げ、長年使ってきた真空管差動バッファーを見直す事にしました。

この機会にI/V変換も見直して、DACの電流出力を直接トランスに入れてしまうトランスI/V変換方式にスイッチすることにしました。
当たり前ですが、増幅段の前にトランスを持っていけばパーマロイコアが飽和する事はないでしょう。

トランスI/Vのアイデアは抵抗1本でI/V変換が実現出来てしまうことが解ると、トランスにも応用出来る事は誰でも理解可能だと思います。自身でも大分昔に実験しただけですが、当時は出来たばかりの抵抗I/Vと真空管差動バッファーに集中していた為、充分な検討もしないまま年月が過ぎてしまいました。この程度の実験ならwebを検索するともう既に結構な数の例が実行されている様ですので、既知の方には今更何を?かも知れませんね(^^;)

web上で見られるいくつかの例だとMCカートリッジ用のステップアップトランスを使ったものが多いようです。カートリッジではステップアップしても数mVが普通なのに対し、変換する電圧にもよりますがI/V変換ではコアボリュームが充分とは言えませんので低域特性が制限されます。フォノイコライザーのように60dBものアンプを備えれば抵抗値を小さくとって数mVの変換でも構いませんが、S/Nの点で不利になります。私的に100mV前後にI/V変換し、そこから20〜30dB程度増幅して出力するのが適当だと思っています。

トランスをI/Vに利用することでI/V変換と同時にステップアップ、さらにローパス・フィルターとアイソレーションの4つを一気に兼ねてしまおうと言う魂胆です。
トランスの2次側をターミネートする抵抗で1次側のインピーダンス、すなわちI/V変換電圧を決定しますが、トランスで電圧をステップアップとしてもやはりこれだけでは出力電圧も足りないし、抵抗I/Vのみの場合と同じく今ひとつ音に力が出ないので、1段増幅を入れてから出力した方が良いようです。

トランスはTANGOのNN−600−10Kを使いました。変圧比は約1:4で、インピーダンス比は約1:16です。
これもパーマロイ・コアのライントランスで、トランスI/Vを実現する為に以前からキープしておいたものです。
このトランスは10Hzでも2次側電圧8Vrmsまで飽和しません。
(旧タンゴの製品ですので入手は難しいですし、パーマロイ・コアのシリーズは高価ですのでおいそれとお奨めは出来ませんが、現行品のNP−126又は前出のNP−216の1次と2次を逆にしてやれば使えそうです。)

PCM1702の出力は±1.2mAで、2次側を330Ωでターミネートしたときのトランスの1次側インピーダンスが19.8Ω相当になるので0dB時47.5mV(P−P)のI/V変換となり、2次側ではその4倍の約193mV(P−P)x 2が取り出せる勘定です。

この2次側のターミネート抵抗で音質が左右されますので良質な抵抗を使って下さい。


※回路図は片チャンネルのみ表示

今回アンプ出力部はトランスと共にCDPに内蔵とする為、真空管の採用を止めて2SK79を2個使ったシンプルなSEPPとしました。
2SK79は3極管に近い定電圧特性を持ったV−FET(SONY)で、拙作のSuperSITで起用してからすっかりお気に入りとなってしまったデバイスです。
電源(±12V)はCDPの基盤(Analog部)から取ります。(せっかくのトランス採用によるアイソレーションと言う観点に立てば不利になりますが、この方がラクチンです!)本当は別電源を用意したいところですが、先ずは手軽に実用度優先でいきます(^^;)

2SK79は3極管と同様に自己バイアスで動作させますが、ソース抵抗を使わずにシリコンダイオードの電圧降下を利用してバイアスを与えます。ソース抵抗の自己バイアスとしてしまうと2SK79の内部抵抗[rd]が上昇してしまい音に力が出ず、バランスの悪い腰高な音になってしまいます。普通にその対策を考えるとソース抵抗にパスコンをパラに入れてやるところですが、抵抗の代わりに1S1588等のシリコン・ダイオードを利用することにより低インピーダンス出力が可能になります。【実測で688Ω(1KHzオン・オフ法)】

規格表によると2SK79のgmは14ですが、実測では手持ちの殆どが17〜18で、内部抵抗rpは1.4KΩ付近だったのでゲイン15倍程度のSEPP出力アンプとなりました。
出力電圧はI/Vトランスの2次電圧68mV rms(193mV P-P
)の15倍となり、最終的な出力は約1V rmsとしました。
と言うのも、改造DVDプレイヤーとレベルを合わせる為に1V rmsに揃えて比較しやすいようにしたものです。

DCカット用のコンデンサとそれ以降のミューティング回路等はDCD−1650ALのオリジナルを利用します。
ELNAの音響用電解コンデンサSILMICの470μFx2と2.2μFx2がバイポーラ接続されてさらにフィルムコン(1μF)とスチコン(0.01μF)がパラ接続されています。この4種のうち2.2μFのSILMICを低ESRタイプの電解コン(100μF)x2のバイポーラ接続に置き換えています。
(実際の接続は出力段のオペアンプを取り外してからそのパターンに配線しているので、その後の可変出力やヘッドフォン出力も生きている)

私は抵抗やコンデンサについてどのブランド(メーカー)の音が良いなどと言うつもりはありません(無い方が良いに決まってます!)、手元にあるもので適当なモノを使っています。(但し、カーボン系はI/V変換に向いていないと感じてます。)なにより、ご自分の耳で確かめて戴くのが一番です。

※右端に映っているのがNN-600-10K、 セメント抵抗でターミネイト(決して侮れず。カーボンよりよっぽどマシ!)。

 

           
 リアパネルを外した写真。何やら上の写真にはない穴が開いている!          こっ、これは! 奥に見えるのは.....ソケット.....そして.....。 


球SEPPバッファー 【DCD-1650AL 10周年記念?】

現在、これとは別に独立したDACをバラックで実験していて、そちらは抵抗I/Vに以前の真空管差動バッファーを使って音だししていますが、明らかに落ち着いた重厚なサウンドを奏でます。
回路的に条件を整えるのにはいささか無理がありますが、トランスI/V変換を正しく評価する為にはせめてデバイスの種類による差は無くしておきたいところです。従ってこちらも真空管でバッ
ファーを組まないと同じ土俵に上がれない(正統な評価?にならない)との判断です。

と言うわけで2SK79に比較的近いgmrpを持った6DJ8(ECC88/E88CC/6922)に置き換えました。以前と同様にトランスドライブのSEPPですので上下の球は某DCアンプよりも完全に対称動作します。但し、前回交換した電解コン(100μF)x2のバイポーラ接続は耐圧が低い(15V)為、一旦オリジナルのSILMIC2.2μFx2(50V)に戻しました。

±12V電源でも動作は可能ですが、新たに専用の±30V電源を用意してCDP(デジタル部)とI/V変換トランス以後のアナログ部をアイソレートしました。SEPPでは信号が電源を通過するので、左右chそれぞれに電源パスコン(220μF)を設けています。
6DJ8のヒーターは手持ちのトランスの都合で2本の球を直列にして12Vで点火しています。

プレート電流は1.5mA程度でしかなく、1ユニットあたりのプレート損失は45mWで球2本分(4ユニット)でも180mWでしかありません。
ヒーター電力が 6.3V * 0.365A * 2 = 4.38W とこちらの消費電力の方が遙かに大きいです。
気になる6DJ8の温度は手で触ってほんのり暖かくなる程度で、熱による他への影響を全く考える必要はありません。

※回路図は片チャンネルのみ表示

手持ちには東芝6DJ8、Philips ECC88、 AEG ECC88、 Siemens E88CC がありますが、AEGだけガラス管直径が21.75mmと太く、本機に空けた21mmの穴には装着出来ませんでした(今さら穴を広げる気にはなれないし...)。音質はどの球も特別イイとか悪いとかあまり差が無かったので東芝6DJ8を使うことにしました。面白いことに東芝6DJ8はウォームアップタイムが短く、電源を入れてプレーヤーが自動的に演奏を始めたとき、他の球はまだ音が出ないのに対して東芝6DJ8だけはギリギリ曲の頭から音が出ます。


全て内蔵することも考えたが、放熱も必要だし、球を取り替えて違いを楽しむ事も考慮し、9PMTソケットはスペーサーを介して内部にオフセットし、6DJ8の約半分が隠れている格好である。
結構飛び出しているが、これくらい出ていないと抜き差しが出来ない。


前から見ただけでは改造してある事に気付かないが、後ろに回ればニョッキリ突き出た球がある。
暫く眺めていると元々此処に付いていた様な気がしてくる...(んな訳無いか(^^;)

電源部


※ 左に追加されたトランスが2個、右上には込み入った配線が!                  ソケット部のクローズアップ、上の青いトリマーはハムキャンセラー(不要)の残骸

PCM1702はバイポーラ・オフセットが出ないのでそのままトランスに繋いでも問題ありませんが、TDA1541A等は負の出力(0〜−4mA)なので出力にオフセット電圧が生じてしまいます。
それでも、本機のように2DACによる差動出力のタイプならトランスI/Vでもオフセットにより生じる直流磁化を打ち消すことが出来ます。

シンプルなSEPP故に出力は私の嫌いなコンデンサ結合ですが、DC-サーボでも掛けない限り直結するわけにはいかず、致し方ありません。
上にも書いたようにオリジナルの基盤にはELNAの音響用電解コンデンサSILMICの470μFx2と2.2μFx2がバイポーラ接続されてさらにフィルムコン(1μF)とスチコン(0.01μF)がパラ接続されています。

2週間経ってみて、やはりこれらのカップリングC群によるカラーが気になり始めました。そこでこれを40μF/50Vのフィルムコンに取り替えたところ、バラックDAC+真空管差動バッファーや改造DVDPと比べると感じていたある種の違和感が解消、ほぼ同じトーンとなりました。 と言うことで独特の色づけの犯人は音響用電解コンデンサだった事が判明したのです。

ELNAのSILMICは音響用とはいえやはり電解コンデンサー、電源のフィルターやデカップリングならいざ知らず、カップリングに使うのはやめておいた方が吉です。
このカップリングコンの実験
2SK79SEPPの時にやっておくべきでした。でも、そうすると2SK79SEPPで満足してしまい、もしかすると球SEPPまではやらなかったかも知れませんね(^^;)

やはり、これも市販CDPとしての価格帯に見合った音質へとチューニングされた結果だったのでしょうかねぇ(^^;) →SILMIC


■ 雑感

トランジスタアンプで有名な安井章氏がMJ2002年6月号で2SK79 SRPPコントロールアンプ を発表されていますが、最後に【12AU7 SRPP回路の例】を示して『より高音質の世界が広がりますので、追試されることをお奨めします』とあります。

この一文は長年に渡って半導体アンプの発表を続けている安井氏が半導体よりも真空管の音質の優位性を認めた発言として興味深いものがありました。今回はSRPPではなくSEPPですが、図らずも検証してしまう結果となりました。(ハナから疑っちゃいませんけどね...)

世間にはわざわざCDラインアンプと名討ったモノもありますが、私に言わせれば『本体に手を入れずして、いくら立派なバッファーを後から付けても意味無し!』となります。(ん十万円もする高級機は弄らない方が身の為です...でも、自分はやっちゃうだろうなぁ...(^^;)

真空管バンザーイ! (^^;)/


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Last update 08-Jan-2006