Loud Speakers Jan 2007.

スピーカー の話をちょろっと。

このHPを見ている人は恐らく誰でも『こんなHPを運営しているヤツは一体どんなSPで鳴らしているのだろう?』と少なからず興味があるに違いない...。

と、そんな素朴な疑問にウンチクをプラスして...(^^;


■ 基本はフルレンジ1本
音楽再生に必要なものはフラットな周波数対振幅特性だけではありません。
確かに広い周波数帯域に渡ってまんべんなくエネルギーを放出できることは もちろん大事ですが音楽とは刻々と変化する音の連続です。
そう、全帯域で時間軸も揃っていないと本来の音の変化が再現出来ないし、定位も曖昧になります。
すなわち 広い周波数レンジのエネルギー情報だけでなく時間軸の情報も正しく再現出来ないと正確な音楽を再現することは出来ないのです。

周波数対振幅特性の優れたマルチウェイSPを使う人が多いと思われますが、 それぞれのユニットが正しい時間軸で音楽を再生出来ているのかはかなり怪しいところです。

一方でたとえその再生周波数範囲が狭くてもその再生帯域内で時間軸がずれることのないフルレンジSPが音楽再生の基本であり、 時間軸の整合は重要な要素です。

しかし、フルレンジと言っても同軸型の2ウェイSPは同列に語れませんので除外します。(例:タンノイ・ALTEC 604等) 


■ 大切なのは時間(位相)情報

皆さん良くご存じの様に1本のフルレンジSPで全ての周波数対域をカバーすることは簡単ではありません。

全ての帯域で入力に追従してリニアにピストンモーションし、かつ、質量が限りなくゼロに近くて分割振動を起こさない剛性の高い理想的な振動板のSPがあれば可能かも知れませんが、現実はご承知のとおりです。
従って広い帯域をカバーする為には必然的に役割分担のマルチウェイとなっているのが実態です。

2ウェイでも3ウェイでも今度はそこで問題になるのが、ネットワークです。
マルチアンプ駆動はひとまず置いておいて、 通常パッシブ型のLCネットワークで帯域を分割するわけですが、時間軸の整合を見ると6dB/oct以外は失格です。

フルレンジをリファレンスにして2ウェイや3ウェイのネットワーク構成のSPを聞き比べると12dB/octや18dB/octを採用したSPシステムでは違和感を感じ てしまいます。

例えば、 左の写真上側のSC-E717Rは極自然に音楽が楽しめますが、同じDENON製でも下側のSC-E727では不自然な繋がり(違和感) に聴こえます。
SC-E727に違和感を感じない人はたぶんフルレンジの音に違和感を感じるでしょう(?o?)

両SPのネットワークを調べるとSC-E717Rは6dB/octのネットワークでしたが、SC-E727の場合はウーハーが6dB/octでトゥイータは12dB/octでした。
このSC-E727のトゥイータを6dB/octに変更してトゥイータの極性を反転してやると違和感は消え、SC-E717Rの兄貴分に相応な音に変貌したのは云うまでもありません。

元々18dB/octや12dB/octだったものを6dB/octに変更してしまうと、トゥイータの耐入力が落ちてしまいますので注意が必要ですが、100Wの定格入力がスペックのこれらのSPに100Wも入力する以前に飽和するでしょうし、家庭でそんな大出力で鳴らすケースは ほぼあり得ないので、実用上は心配無用と思われますが....。

話を戻して、ではなぜフルレンジとの違和感を感じるのでしょうか?
それは6dB/oct以外のスロープのネットワークでは周波数対位相特性が平坦にならず、クロスオーバー付近で大きな位相回転と 共にピークやディップを生じているからと思われます。

もちろん誰でもが知っているように楽器の音は低周波発振器の様なサイン波ではなく沢山の高調波を含んだものです。
問題は楽器の音が分布している周波数帯域で低域と高域の再生に時間差があるとすると、基音と倍音の位置関係がずれて正しい音 色が再生出来ない恐れがあることです。

例えば『ガキン』という音がする楽器の基音が『ポン』で、倍音が『カン』、さらにその倍音が『チン』とだとします。
これが正しい位相すなわち正しい時間情報で再現されれば『ガキン』のハズ(あくまで例えですよ(^^;)が、倍音の位相すなわちタイミングがズレれば『ポキン』??とか『ポカチン』???と聞こえるかも知れないのです。或いは倍音の位相を180度反転してしまうと(SPの極性が逆と同意)『ガシャン』とか『ポスン』に聞こえるかも知れません。
これらはかなり極端な 想像の例えかも知れませんが、ウーハー,スコーカー,トゥイータの位置や帯域内の位相が揃っていなければ、少なからずこんな事が起こっていてもなんら不思議ではなく(時間軸がズレて結果的に再生波形が歪んでしまう)、実際にはもっと複雑な事態が起きているのではないでしょうか。

しかし、人間の耳には位相差は重要でないという説もあり、特に高域では位相を変えて再生しても検知出来ないらしいです。
それを検証するには一筋縄ではいきませんが、トゥイーターを逆極性にしたとき感じる クロスオーバー付近の違和感が示すように少なくても中域以下では検知できていると思えるし、ホールやライブ効果等を狙ったサラウンドでは積極的に位相や時間差を制御していろんな演出をしています。
楽器の音色を連続音として認知しているとき、位相差は問題にならないのかも知れません。けれども音楽は刻々と変化する音の集合であって、連続波というよりもインパルスの連続と捉えた方が説明がしやすくなります。
その瞬間瞬間の音に含まれる基本波と高調波の発生タイミングが揃っていなければやはり正しい再生が出来ているとは言えないのです。
ですから、どちらかというと同一周波数でのズレを思い浮かべる位相と 捉えるよりも、どの周波数でも時間軸の差と考えるべきでしょう。
高域に行くに従って音波の周期は短くなりますので、位相角と時間差は一定ではありません。従って位相差が同じ90度だとしても周波数が高ければ高いほど時間は短くなり、判別しにくくなるものと思われます。

以上のように時間軸の視点に立つと、振動板位置を揃えるリニア・フェイズ方式が理に適っています。
しかし、ネットワークで位相を乱しては意味がなくなってしまいますので、 時間軸の整合=位相差ゼロ(フラット)が理想です。

時間軸の整合を判断する為にもフルレンジリファレンスにすることに重要な意味があるのです。

 


■ 時間軸を揃えるにはプラム・イン・ライン(鉛直)配置のリニア・フェイズ

ネットワークで位相をフラットに出来たとしても、実際のユニットの位置がバラバラでリスナーへの距離が揃っていない場合は時間軸の情報を正しく再現することが出来ません。
もし、あなたの耳が左右3個ずつあって低音・中音・高音それぞれの各周波数帯を担ってしかも脳内で位相補正が出来れば問題ないかも知れません(絶対ありえません!)。

音波が空気中を伝わる速度は低音でも高音でも同じです。正しい波形再現を目指すなら低・中・高の各ユニットの振動板をリスナーから等距離にすることが必要です。

リニア・フェイズの考え方はかなり古くからあり、1975年に発表されたTechnicsSB-7000 あたりから始まったようです。
直後76年の発売から一世を風靡したのが SONYSS−G7 で、私のオーディオライフを約17年もの間支えてくれた友でした。
その後の1984年にはONKYOから現在の Time Domain の祖となるオール・ホーン構成で時間軸の整合を図った Grand Scepter GS−1 が発表されましたが、当時は全くオーディオから遠ざかっていた時期でしたのでその存在を知ったのは Time Domain のHPからでした。


左からTechnics SB-7000、SONY SS-G7、ONKYO Grand Scepter GS-1 の各名器達

SB-7000 のネットワークがどんなものだったのかは知りませんが、6dB/octでなければいくらユニット配置が鉛直だとしても位相特性がフラットにはなり得ないので真相は如何に?
Time Domain の元祖である GS-1 のネットワークがどんなものだったのかも知りたいところですが、インターネットを検索しても見つかりませんでした。

自分自身が G7の不自然さに気が付いたのは購入の数年後にも遡りますが、やはりフルレンジ1本との比較がきっかけでした。

DCアンプを作るつもりは無かったけれども説得力のある文章で自作派には影響力の大きな金田明彦氏の著書を読んでからで、その著書の記事にあるネットワークと位相の関係において 6dB/oct 以外は位相特性がフラットにならないとの文を目にして、早速試してみた訳です。
それまではノーマル G7とフルレンジの比較に於いては G7の音の方が歯切れが良く楽器の輪郭がクッキリした印象であり、フルレンジはやたらと残響音が聞こえて引っ込んだ音のように感じていました。

ところが G7のネットワークを改造して6dB/octにしてみたところ、驚きました、まるでフルレンジのような音調になり、全体的にそのフルレンジをさらにレンジ拡大したように変化したのです。
長い期間ノーマル G7の音に慣れていた、否、慣らされていた自分にとって非常に不思議な感覚だったことを覚えています。なにせ、G7を買った理由は当時の数あるSP群の中でも独特のクセが無く、それでいて重厚でスケール感のある音質のSPだったからです。せり出したウーハーは太鼓腹とも揶揄されましたが、なんと言っても38cmウーハーの存在感は絶大で、低音の量感と共にバランスの取れた音質でした。しかしながら、それまでの自分はフルレンジの音に違和感を感じていたのですが、6dB/octの音を聴いてからというものフルレンジの方が正しかったのだと認識を改めるに至った訳です。

オーディオコンポーネントの何を変えても共通することですが、再生装置のグレードが上がれば上がるほどに透明度が増し、基音とは別の残響音があきらかに 表現・判別出来るようになり、それらの情報が空間の密度やコントラストを伴ってより音楽を美しく表現し、再生音の品格が上がります。
それまでのノーマル12dB/octネットワークでは正しく再生出来ていなかった情報(減衰・後退した残響音等)を6dB/octではフルレンジと同様に再生される事が現実に依って証明されたのですから、フルレンジの音を侮るわけにはいかなくなりました。

しかし、当然の事ながらフルレンジ1本には限界があります。
広帯域再生をするためには分割振動問題を避けて通れませんし、それ故にフルレンジではいわゆる個性音を受け入れざるを得ないのが致し方ないところです。

有名なフルレンジにJBLLE-8T というユニットがありますが、やはりシングルコーン故に分割振動は避けられず、独特の音色を持っています。もうひとつ過去に友人が所有していた L-26 という2ウェイSPが記憶に残っていますが、これも JBL らしい闊達なサウンドを奏でるSPでしたが独特の個性音をもったSPでした。それが分割振動のせいだったのかネットワークのせいかどうかは不明ですが、やはり2ウェイでは不充分で、3ウェイが無理なく広帯域再生を可能にしてくれる構成なのだと感じます。4ウェイや5ウェイのようなもっと沢山の帯域に分割する手もありますが、ユニットが増えれば当然の如くそれだけ音を纏めるのが難しくなります。沢山のユニットがついていた方が偉そうに見えたのでしょうか、過去には4ウェイや5ウェイのSPも市販されていましたが、主流とはなり得ませんでした。

 


■ リニア・フェーズではないが印象に残る傑作SP

 YAMAHA NS−1000M 
 一時的に所有していた NS-1000M。 
自作のSPシス
テムを評価する為のリファレンスとして導入したが既に人手に渡って久しい。

恐らく殆どのオーディオファイルが認めるであろう往年の傑作で、今現在でも沢山のユーザーが現役で使用しているのではないでしょうか。

ベリリウム振動板のスコーカーとトゥイーターが世界から見ても高レベルの音質と認められ、日本のSPの地位を一気に押し上げた記念すべきモデルで、20年近く生産され続けた超ロングセラーです。
欠点は低音の量感 不足と小音量時のスケール感の無さですが、ハイパワーのアンプで比較的大音量で鳴らせば素晴らしい鳴りっぷりでした。

個人的には密閉箱でなく底面か背面にドロンコーンでも取り付けるか、一回り大きなバスレフ箱に38cmウーハーでも採用すれば大型のライバルSP達をも駆逐出来たのではと思います。(でも38cmを付けたら既に大型の仲間入りです(^^;)
いわゆるG7の箱とウーハーに1000Mのスコーカーとトゥイーターを組み込んだならリニアフェーズで良いモノのが出来たのではないかと勝手な想像をしてしまいます。 YAMAHAには上位にFX-3と言うフロア型の大型SPが有りましたので、内容的には近いのですが、リニア・フェーズではないところがちょっと残念。

その後86年頃になってから出た上位機種のNS−1000Xではウーハーが強力になり、1000Mで不満だった低音も大きく改善されました。これはユニット配置がインラインになりましたが、どうせならプラム・インラインにして欲しかったところ。

 PIONEER S−955
 上に乗っているのは6dB/oct を実験するために外付けしたネットワーク。

こちらも殆どのオーディオファイルが認めるであろう往年の名器です。 

これもベリリウム振動板のスコーカーとリボントゥイーターが奏でるその精緻な音質に沢山のファンを獲得しました。最終型のS-955IIIではベリリウム・リボントゥイーター(PT-R7III)でした。
しかも36cmウーハーによる低域再生の下限周波数も28Hzと充分に低く、高域に至っては120KHzとコウモリでないと聞こえないような周波数レンジに驚いたものです。
1000Mに比較して倍近い値段だったことと、ブックシェルフとは言えその大きさと重量はとても本棚に収まるようなものでは有りませんでした(もちろん1000Mも同様です(^^;)ので1000M程の数は売れていないでしょうけどユニットのクオリティも全体のまとまりも時代に惑わされない『これぞ 本物のHiFi-スピーカー』と言う確かさを感じます。

これもユニットの配列をプラム・イン・ラインにして各ユニットのタイムアライメントをとってみたくなるSPです。

 

上記2機種のSPは確かに広帯域で高音質でしたが、ノーマル状態のネットワークは12dB/octだったので(S-955はLow-6dB/oct, Mid-18dB/oct, High-12dB/oct)、良く言えば纏まりの良い端正な感じを受けますが、音像が小じんまりとして6dB/octの音に慣れた耳にはもの足りなさを感じてしまいます。

おそらく誰が聞いてもフルレンジや6dB/octのほうが12dB/octや18dB/octよりも大きな音像に感じるでしょう。
6dB/octの場合、確かにクロスオーバー付近ではユニット同士の配置による干渉や音源位置のダブりや移動が問題になることも有ります。しかし、それよりも合成された位相の特性が問題だと考えています。
先にサラウンドの話を持ち出しましたが、4chや5.1chでなくても位相情報は2chでの定位感にも影響が有ります。
ネットワークを考えたとき、刀でスパッと切ったように分割出来れば理想ですが、急峻な特性のフィルターの位相特性はやっぱり急峻に変化しているし、CDプレイヤー等に代表されるデジタルフィルターでもシャープなカットオフの特性ではインパルス応答にリンギングが現れ、原音には無いはずの付帯音となって再生されてしまいます。

偶に掲示板などでボーカルもののソースを鳴らしたときに「ビッグマウス」等の表現で音像が大き過ぎると云う意見を目にすることが有ります。
そういう方は小さな音像が正しいと思っている様ですが、人間の声が口から出るとは言え全身のエネルギーを使って発せられるものですので、私は全身を感じられるような音像が自然だと思います。音(声)だけがSPから発せられ、実態が目に見えないから実感が伴わないのかも知れませんし、 毎日の生活で視聴しているテレビの音が気付かないうちにリファレンスになっているのではないでしょうか?
これは生楽器の演奏を自分の部屋で直接聴いた事がない人が陥る錯覚なのかもしれません。例えばサイズ的に決して大きくないフルート等でも実際の生演奏では大変なエネルギーを持っています。それこそ生身の人間が全身で演奏しているのですから...。 直ぐにと言うほど簡単な話では有りませんが、家族でも友人でも誰かに部屋で生演奏をして貰い、その音を確かめることが出来たなら、本来あるべき音が良く判るのではないかと思います。(しかし、家庭にあるピアノはあまり参考にならないことが多いです、録音に使われるピアノの音とその設置条件の違いがあまりにも大きいし、マイクのセッティングが極端なオンマイクかホールでの収録なので家庭での条件とはあまりにかけ離れているのがその理由です。)

「絶対にこうだ」、と言い切るほど某著名ライターのように断言などしたくはないですが、上に挙げたような様々な理由と実験で得られた結果により、現時点では 6dB/oct が一番自然なエネルギーバランスで再生出来るベストな方法だと思います。

ムジークフェストの徳久氏が波形合成の怪現象というテーマでシミュレーションした例がありますので是非こちらも見て下さい。 (残念ながらリンク切れです)

そう思ってG7以外にも市販SPの何台かを6dB/octへの改造を施しました。 ちょっとした実験に不向きな密閉の NS-1000M には手を着けませんでしたが、S-955 は元々マルチ駆動用の端子が有るので 、外付けの6dB/octネットワークを作成して試していますし、始めに書いた DENON の SC-E727, 737, 757でも実験済みです。その音質はと言うと、どのSPも例外なく 痩せていた音像がふくらみ、より実在感の伴う厚みと余韻のある音質に変化します。
貴兄がその音を素直に受け入れられるかどうかは貴兄次第ですが、くれぐれもリファレンスの為に素直な音質のフルレンジSPを1セット用意しておきましょう。

 


■ 拙宅のスピーカーシステム

Last update
first up

ortofon Kailas for Amplifier Sound Check

14/05/10
14/03/09

3way All Horn System with Multiple Amplifier Drive

14/08/15
07/01/21

球形スピーカーの製作  for Reference Sound

14/08/15
14/03/10


 Back to Home 


Last update 15-Aug-2014