811A/809 プラスバイアス超3結 シングル  since Dec 2012

  

前身である801A (VT-62) P-K合成出力A2級シングルは電解コンデンサの耐圧不良に因る故障で中途半端になったまま暫く放置していましたが、このアンプの電源部は当初の801Aシングルアンプとしては余裕をとった為、もっと大型の出力管もまかなえる容量がありま した。

今回は送信管のシングルでは音が良いと巷で評判の811Aを使って+STC回路を組んでみました。

811Aは本家RCA製ではありませんが、良質のCETRON製が比較的安価で手に入ったので本機への採用となりました。

※その後本機ではRCA809も無調整で動作することが判明し、2つの球を差し替えて楽しめるアンプとなりました。

+STCとは拙作46+超三極管接続シングルから始まったスタイルのアンプです。 

他にも+STCに賛同してくれた方々のアンプを+超3アンプの仲間達として紹介していますのでご覧下さい。


回路構成

Super Triode Connection いわゆる超3極管接続は故上條信一氏が1991年に発表した回路方式で、内部抵抗の高い5極管に3極管をダーリントン接続のように繋いで3極管のμ・rpを5極管のgmで拡大することで現実の3極管を超えた特性を実現するものですが、それにより得られる高ダンピングファクターと快活な音質は沢山の真空管自作派を虜にしました。

ネット上では多くの自作アンプビルダーによりいろんな管種の超3結アンプが製作発表されましたが、基本的には通常の負バイアスの5極管やビーム管によるもので、送信管に応用した例はありませんでした。その理由は先ず第一に3極出力管に3極管を繋いで超3結にする等とは回路を理解してる人は考えませんし、尚かつ超3結Ver.1のドライブには高インピーダンスの電流ドライブが必要なのに対し、グリッド電流を流して使う 正バイアス送信管には必然的に低インピーダンスの電圧ドライブやイントラでのドライブが必要になるのでそもそも超3結Ver.1をそのまま応用することは出来ません。

送信管と呼ばれる球には前作の801A、211845のような負バイアスで使える球もありますが殆どが800〜1000V級の高圧電源が必要で、尚且つ10K〜14KΩ程度の高負荷インピーダンスでの動作になります。故宍戸公一氏が提唱したイントラ反転シングル方式によってオーディオに応用出来る多くの 正バイアスの送信管が紹介され、しかも殆どが500V以下&低負荷インピーダンスで動作させられるので送信管アンプ製作のハードルもグッと下がり送信管がより身近なものになりました。

しかし、それらの正バイアス送信管はまるで5極管の如く内部抵抗が高いので実用的なダンピングファクターを得るにはある程度高帰還アンプとならざるを得ませんでした。そこで何とかならないかと目を付けたのが超3結の応用だったのです。
此らグリッド電流を流して使う正バイアスの球にはダイナミックカップルやカソードフォロワーを1段入れることにより負バイアスの出力管と同様に負バイアスで制御が出来る様になります。合計で3個の球を繋ぐことになりますが、こうすることで 正バイアス球での超3極管接続が可能にな ります。

正バイアス送信管は総じて高gmではありませんが、超3極管接続の効果は充分に大きく、内部抵抗の高い送信管がオーバーオール帰還無しでも充分実用になるDFが得られます。

正バイアス送信管の超3極管接続(+STC)はトリタン系送信管特有の明るく厚いトーンと高ダンピングファクターを両立すると同時にトリタン系独特のクセ(?) らしき音も消してしまう効果があり、ナチュラルで力強い音質が特徴です。(自己評価ですが...f(^^;)

今回は初段のヘッドにWE717A、帰還管に6EM7の第1ユニット、ダイナミックカップルに6EM7の第2ユニットを使い811Aをドライブしています。


■ 回路図

見た目にシンプルで、46+超三極管接続シングルやそれをベースにしたN氏作の808+超3アンプ回路は基本的に変わりありませんが、今回はちょっと違ったアプローチをとっています

初段WE717Aはデータシートがwebでも入手出来ないので詳細は不明ですが6AK5相当らしいです
※某月某日このページを見ていた方からメールを戴きWE717Aのデータシートが存在することを知りました。 以下のURLを参照下さい

http://blogs.yahoo.co.jp/fareastern_electric/914437.html

https://box.yahoo.co.jp/guest/viewer?sid=box-l-gidavygid6mnutjnu72335j7ui-1001&uniqid=625c6ac9-4ed8-4cf5-813f-ae7f53587e18

いつもなら初段には高gmの球を使うところですが、今回は6EM7の第1ユニット(μ=68)を帰還管として使う為に電流があまり流せませんのでそれに合わせてに低gmの5極管としました。もちろんWE球ですので、その音質にも期待しての採用です。

6EM7は既に20年以上このシャーシーで動作している球で、これまで何回か主(出力管)が入れ代わってもずっと居座り続けている執事的な存在ですが、高μの第1ユニットと低rpの第2ユニットが同居しているので、いろんな回路に応用出来る便利な球です。
前回まではトランスドライブがほぼその役目でしたが、今回は超3結の帰還管と811Aのグリッドをドライブするダイナミックカップルとしての奉公となりました。

46808の場合と大きく違っているのは811Aの陰極(フィラメント)側に定電流を入れた事と、その陰極電位から初段スクリーンへのDC帰還をかけていることです。このDC帰還は上條さんが超3極管接続 6BM8シングルにてだいぶ昔に実行されていますが、出力管カソードに定電流を入れることによりさらに安定度が増します。欠点は電源利用効率が悪くなる事ですが、安定度の向上と46+超三極管接続シングルで採用したスクリーン電圧の調整回路 (簡易PSDC)を必要としないことが充分メリットになります。

6EM7の第2ユニットですが、ダイナミックカップルとした場合、普通ならプレートはB電源に繋ぐだけです。
しかし811Aの陰極電圧をなるべく低くした方が実効プレート電圧を高く出来るので、そのために6EM7の第2ユニットの バイアスはなるべく浅い方が有利です。そのままプレートに出力管と同じB電圧を供給するとバイアスが深くなってしまうので電圧を下げる為2SC2752による電圧レギュレーターを組んで+B2として供給しています。この 段では811Aのグリッドを振るだけなので高電圧の必要はありません。

定電流回路を100mAに設定したことにより811Aのプレート電流は81mA、グリッド電流が19mAとなっています。
現時点で811Aの実効プレート電圧は約360Vであり、そのプレート入力(損失)電力は最大プレート損失45W(CCS)に対して約30Wとまだ タップリ余裕がありますが、既にB電圧 は電解コンデンサの耐圧の限界に迫っており、この辺が電源容量と発熱量からみてもこのセットの着地点であります。


■ 電源回路

以前のB電源は整流管5AR4とチョークインプットでしたが、今回は小容量のフィルムコン3.3μF/630Vを整流直後に入れてチョーク後の電圧を 約445Vに上げています。

前述した6EM7の第2ユニットに供給する為の電圧(+B2)は高耐圧のトランジスター(2SC2752)で レギュレーターを組んでいます。これは6EM7第2ユニットのプレート電圧を下げる為のみならず811Aのグリッド電流変化にも対応する為でもあります。

回路図中のツェナーダイオードは3本しか書いてありませんが、上側2つのシンボルはそれぞれが1Z50が2本直列(100V)ですのでご注意。実際は全部で本あります。 【1Z50 x4, 1Z24 x1】

811Aのフィラメント点火ですが、当初はAC点火にハム・バランサーと100Hzのハム・キャンセラーの組み合わせで実用の可能性を探りましたが、 ハムバランサーで50Hzを打ち消した後に数十mVあった100Hzのハムをハム・キャンセラーで数mVまでは下 げることが出来てもそこが限界、トリタンフィラメント球ではそこまででした。仕方なくAC点火は諦めてDC点火にすることにしました。

そこでいつものようにスイッチング電源の採用となるのですが、811Aは6.3V/4Aですので25.2Wもの電力が必要です。しかし何処を見渡しても6.3V出力のスイッチング電源は市場に出回っていませんので、5V用を小改造して使う事にしました。
シャーシ内部に内蔵する為になるべく小さな基盤タイプを各社のラインアップから探しましたが、ARITOさんが掲示板で紹介された(株)アコンに値段が安くて手頃なサイズの5V/35W基盤型スイッチング電源があったのでネット通販で購入しました。 他にも使えそうなヤツはありましたが、各販社とも在庫が無いものが多く、今回購入した電源も入荷まで約ひと月半待ちでした。

殆どのスイッチング電源において出力電圧は調整可能で、その幅は公称±10%です。
実際はもう少し可変範囲が広いものもありますが、定格5Vの電源で6.3Vに調整可能なものは先ずありません。もし、電圧調整が出来たとしても6V以下で過電圧保護が効いて出力しなくなるのが普通です。従って6.3V出力にする為には電圧調整回路と過電圧保護回路の両方を弄る必要があります。概してスイッチング電源の2次側にはTL431によるレギュレーター回路があり、1次側にフォトカプラーでフィードバックするのが定番になっています。今回の起用の【HK35W-SPL-5】も同様ですのでその回路を読み取って必要な定数の変更を施します。
今回はスイッチング電源本体に手を入れることからフィラメントの突入電流防止のためのスロースタートも電源に組み込みました。


基礎体力 (諸特性)

 最大出力 (歪率10%) 11.7 W 
 最大出力 (歪率5%) 9.2 W 
 ゲイン

 17.3 dB

 高域カットオフ (-3dB)  60 KHz
 ダンピングファクター    4.3 (8Ω)
 残留ノイズ 0.7 mV

シングルアンプとしてはまずまずの特性となりました。
高域カットオフは60KHzと数値的にはあまり伸びていないように見えますが、100KHzまではなだらかに下降しているので充分な特性です。

 


■ 音質傾向

数値的には全然大したことのないアンプですが、トリタン直熱送信管ならではのハリのある中高域と超3結らしい低域の力強さが同居したサウンドです。

2012年末に+STCスタイルアンプの中にあって音質的にこれまでのベストに位置していたN氏作808+超3アンプと聞き比べをしてみましたが、両者とも甲乙付け難いというよりもほぼ区別の付かないレベルでした。
強いて言えばOPTが小さい分、拙作の方が若干低域が劣るかな〜と言った印象ですが、そこは超3結の威力、かなり拮抗していて殆ど差はありません。

超3結Singleではそれほどコアボリュームの大きなOPTでなくても充分な低域が出るので、よほどの大出力を求めさえしなければXE-20クラスで充分で、それよりも大きなOPTは無駄に見えてきます(^^;


■ 雑感

私にとって約1年10ヶ月ぶりとなる新作ですが、震災後は本当に製作意欲が湧かず悶々としていました。
漸くやる気になった昨年の春から取りかかりましたが、このアンプは8ヶ月もの間作業台の上に裏返しになったまま春夏秋を過ごし、漸く冬になって動作させることが出来ました。

実のところ既に6月にはほぼ回路が組み上がって音出しも出来ていたのですが、AC点火からDC点火に移行するにあたってスイッチング電源の入手遅れや、その他のイベント等が重なってずいぶんと放置してしまいました。その約半年の期間中は1枚のCDも買わないほどで我ながらオーディオから遠ざかったと自覚する始末。漸く新作の音に触れ、音楽の感動と無限の可能性を感じたときに漸く以前の感覚が蘇ったような気がしました。

さ、次は何作ろうかしら...?


★ 追試される方へ

・ SW電源は発振する場合がありますので初段近くへの配置は避けて放熱の妨げにならない場所を選んで下さい。
 発振の疑いがある場合は出力にパラで電解コンデンサ(10000μF程度)を付けて下さい。

・ 定電流回路のMOS-FET(2SK683)は6.7Wも熱を出しますので充分な大きさの放熱器に取り付けて下さい。
 回路図に記入漏れで書いてありませんが100Ωの抵抗は5W (発熱量は1W)です。

2SC2752は一見フルモールドのように見えますが、裏側の金属部分がコレクタにつながっていますのでシャーシー又は放熱器に取り付ける際は必ず放熱用絶縁シートを挟んで下さい。
 

調整について:

1KΩ10KΩのVRはどちらも最初は中点に設定して下さい。

WE717Aのカソードにある可変抵抗(1KΩ)は717Aのバイアスを調整することによりプレート電位を変化させ6EM7第2ユニットのグリッド電圧をコントロールして最終的に811Aのバイアスを調整するようにも見えますが、811Aの プレート+グリッド電流は定電流回路により100mAに制限されているのでここでは811Aの電流(Ip+Ig)を調整するのではなく717Aのプレートとスクリーン電圧を回路図中の電圧に調整します。
この調整は811A にかける実効電圧を支配しています。

その811Aの電流(Ip+Ig)調整は定電流回路のバイアス調整(10KΩ)で行います。(100Ω両端で10V)

※ 直結アンプ故に最初の電源投入から2日くらいまでは球の初期ドリフトがありますので随時電圧チェックして下さい。

    その後1〜2週間で確認して大きくずれていなければ問題ありません。
 

 


RCA 809 の適用

800番台の送信管には、811の2つ手前に809がありますが、これも6.3Vフィラメント(2.5A)でプレート損失はICASで30Wとなっており、その特性もほぼ811Aに似たゼロバイアスのトリタン送信管であり規格上ひとつ下に位置しています。

本機の回路動作は811Aではまだ余裕ですが、ギリギリ809が動作可能な範囲に収まっています。
もちろんフィラメント電圧が同じ6.3Vであり、電流は少ないので回路変更しなくてもそのまま809を動作させることが可能です。

しかも本機では直結ながらも出力段は定電流回路で規制されている為、再調整無しで809に差し替えることが出来ます。

811Aに比べて809の音質はふっくらソフト寄りですがこれは好み次第です。

 

 

 

 

 

 

 

 

RCA811Aの音もチャンスがあれば本機で聞いてみたいものですが、本機のコピーを製作された方からは曙光電子(Shuguang)製811Aがなかなか良いとの情報をいただきました。

使用スピーカーや好みにも左右されますのでご自身の判断と責任で選択して下さい。

 

 


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Last update 18-Oct-2013