8417 CSPP  since Nov 2013

   

前作 300B CSPP の出力管を変更して、高gmビーム管8417によるCSPPへと生まれ変わりました。

SG300Bは寿命(エミ減)により引退を余儀なくされましたが、その後釜として浮上したのが直熱3極管とは対極に位置する傍熱ビーム管8417

CSPP出力回路は何よりドライブしにくいと言う欠点がありますが、低感度の古典管ではそれをことさら強調してしまい最大出力まで動作させることが非常に困難で、前作も中途半端でした。それに比べるとバイアスの浅い近代管はドライブしにくいCSPPにとっては ベストの選択肢になります。

(そもそも300BでCSPPを組む等というのは邪道なのです。但し、勉強にはなりました...(^^;)


近代管8417とは

その型番からして登場は6550より遅く、ほぼ真空管時代末期故に少ない入力で大出力が取り出せるという高効率球の代表的な存在です。

そしてそのgmはなんと23mSとEL34/6CA7(11mS)の2倍以上もあり、国産出力管の代表あの6GB8の18mSをも大きく凌駕しています。
ドライブ電圧は小さく済むのですがその高感度故に固定バイアスでは発振(寄生振動)や不安定になりやすいといった使いにくい面も併せ持っています。

メーカー製アンプでの実績(Quick Silver Mono Block 60がある)も少なくKT886550のように名機と謳われる製品に使われたこともないようなので良く解らない球と言った印象です。

規格表よりAB1級PPでの推奨動作例が紹介されています。

これによるとVp=400V、Vsg=275Vの時、RL2800Ωで65Wとなっており、CSPPでの負荷は4分の1なので本機のOPT1次インピーダンス(700Ω)にピッタリの動作例です。
今回はこの例に倣って動作を検討します。

Sgの耐圧は500Vですが、許容損失が大きくないので上の動作例でもSg電圧は低く設定されており、水平出力管に近い特性であることが読み取れます。


回路構成 (Type A)

前作そのままの構成ですが、ブートストラップを廃し出力段のバイアスが浅くなる分の変更を加えます。
直結アンプの場合前段は直後の球のバイアス分電圧が下がるので、格段ともバイアスが浅い方が電位差が少なくなり、電源の構成が楽になります。

OPTは以前のままの1次インピーダンスを700Ω+700Ω+700ΩにしたARITO@伊吹南麓さん特製の『マッキンタイプCSPP用試作トリファイラ捲きOPT』です。
トリファイラの3つめの巻線は以前ドライバーと初段へのブートストラップ が目的でしたが今度は8417のスクリーングリッドにレベルシフトした電源を供給するのが主目的で 、ドライバー段のブートストラップはそのままで初段へのブートストラップは廃止しました。

以前の 300Bは低μの3極管でそのバイアスも約−75Vと大きいものでしたが、8417では約−13Vと1/5以下となり、最大出力の為のドライブ電圧が小さくて済むのが大きなメリットです。

実際に発振を観測したわけではありませんが、高gm管には憑きものの寄生発振防止のために各8417のプレートには220Ωの抵抗に10ターン巻いたRFCを入れてあります。

CSPPではないかつての300B全段直結差動PPの時代には低インピーダンスドライブ かつ大電流を流す為にカソフォロ段に大げさな 6BL7 を採用していましたが、CSPPでは出力電圧の50%が逆風になるので広い電圧範囲で動作させる為にも電流を絞り、尚かつドライブ電圧の負担を少しでも減らす為に もっとバイアスの浅い 12SN7 に変更しましたが、出力段のバイアスが浅くなったぶんこの段のカソード電位が上がり、カソード抵抗での電力損失が大幅に増えてしまうので電流を減らす為にカソード抵抗値を39K→100Kと大きくしています。

マッキントッシュの例を見るとカソフォロ段には12AZ7(12AT7)等の高μ管を使い、わざとバイアスの浅い動作を選んでいることが判ります。
GT管なら6SL7あたりを検討したいところですが、今回はMax動作の100Wを狙っているのではないので、本機では12SN76SN7) のままで充分と判断し ています。
 

6J116FQ7 の組み合わせは5極管と3極管による変則的なSRPPとなりますが、以前と同様に初段だけで出力段をドライブする為の電圧とゲインを稼がなくてはなりません。しかし、 以前の300B CSPPと違ってバイアスの浅い8417では大幅に楽になります。

50%のKNFは相変わらず強烈な逆風ですが、以前より初段のプレート電圧が上げられるのでブートストラップ 無しでもドライブ可能な信号電圧が得られています。

6J11のスクリーングリッドへの電源供給は出力段の電流検出抵抗から得られる誤差電圧を2SJ117による差動アンプにて供給し、DCバランスサーボを構成しています。

手持ちと成り行きの都合で6FQ712SN7を使用しましたが、どちらも同じ特性の球なのでルックスを考えればどちらかに統一しても又は6SN7にしても全く問題ありません。


電源回路 (Rev.0)

電源は変則2段重ねの嵩上げです。

※ちょっと問題が...必要なヒーター電力に対してヒーター用巻線の容量が不足しています。

 8417  6.3V  1.6A  4本  6.4A
 12SN7 12.6V  0.3A  2本  0.6A
 6FQ7  6.3V  0.6A  2本  1.2A
 6J11  6.3V  0.8A  2本  1.6A

以前300Bは5VのSW電源によるDC点火だったのでトランスのヒーター用巻線は余裕タップリでしたが、3.5A巻線2つで4本の841712SN7の1本を賄えても もう1本の12SN76FQ7の分がオーバーしてしまうのと、1.5A巻線で2本の6J11は0.1Aのオーバーです。
後日トランスを追加して対策が必要ですね(^^;


電気的特性 (Type A)

 最大出力(ノンクリップ)  56 W 
 最大出力(歪率5%)  64 W 
 ゲイン (Closed)  24.3 dB
 ゲイン (Open)  34.8 dB
 高域カットオフ(-3dB)  110 KHz
 ダンピングファクター  20 (8Ω)
 残留ノイズ  0.35 mV 

ループ帰還は偶然にもブートストラップ有りの 300B CSPP と同じく10.5dB ですが、ダンピングファクターはかなり大きくなっています。

最大出力もほぼ狙った値が得られていますが、OPTの設計仕様は50W/40Hzにもかかわらず実機ではほぼ30Hzまで60Wが得られています。
しかも実効プレート電圧450V程度の動作としては驚異的とも言える出力です。

歪率も周波数特性も申し分の無い特性になっています。

ARITO@伊吹南麓さんによる試作トリファイラ捲きOPTは高域特性がなだらかに減衰している為に過度特性が良く、NFBを10dB以上かけても他のOPTで感じるような音質劣化が殆どありません。


■ 音質

大出力CSPPらしい端正且つ余裕が感じられる音です。

製作者故にどうしても贔屓目に感じてしまいがちですが、300B CSPP に勝るとも劣らない音質に聴こえます(^^;;;


■ 雑感

ほぼ狙いどおりの出力と性能が得られましたが、数値的にはA3000(改)6550CSPP)にも迫ってるし、高ダンピングファクターの優位性もありますが、音質は直結のこちらの方が私好みです。

※まだ確定ではありませんが、本機に使った試作トリファイラ捲きOPTとほぼ近い仕様の新トリファイラOPTが染谷電子より2014年の発売に向けて現在準備中とのことです。

※続報(2014年2月): 型番はASTR−08で現在試作を評価中とのこと、4月中頃の発売予定だそうです。


■ Appendix

トリファイラ捲きOPTの資料

 


 Type B, Bootstrap  Jan 2014

CSPPではブートストラップを利用することにより大きなドライブ電圧を緩和することが出来ます。
本機ではHigh gmである8417のおかげでブートストラップ無しでも充分ドライブ出来ますが、ブートストラップにてKNFをキャンセルした音質も確認してみます。


回路構成 (Type B)

初段変則SRPPの上側3極管(6FQ7)のプレートをカソフォロ段のプレートに繋ぎ、以前の300B CSPPと同じようにブートストラップを掛けます。
これにより出力段のKNFはキャンセルされますが、出力段自身のゲインが上昇するので余裕でドライブ出来るようになります。

ゲインの上昇によりNFB量が増え、NFB抵抗2.2Kに並列に接続した高域補償のコンデンサも 220P → 630P に変更しています。

初段の6J11のヒーターは2本を直列にして12Vスイッチング電源によるDC点火とし、ハムキャンセラー回路を撤去しました。
さらに初段定電流回路に持たせてあるPSDC機能を見直し、12Vツェナーを追加して補正バランスを取り直しています。


電源回路 (Rev.1)

ヒーター電力不足を改善する為に初段6J11ヒーター用に12V/3Aスイッチング電源 を追加し、6J11は左右2本を直列にして点火しています。

不足していた6FQ7の分のヒーター電源は二つある6.3V,10V/3.5A巻線の6.3Vと10Vタップ間の3.7Vを直列にして7.4Vを得た後に双方向ダイオード4個(ブリッジ)を入れて約6.1Vにドロップさせて供給。以前6J11に供給していた6.3V/1.5A巻線を直列にして12SN7のヒーターを賄っています。

+B2は初段・ドライブ段と300B時代には無かった8417スクリーングリッドへの電源供給を担っていますが、平滑回路の抵抗値が1KΩと大きすぎた為、大出力時にスクリーングリッドへの電流供給 で電圧がドロップし規格どおりの出力に達していませんでしたが、半分の500Ωに下げてレギュレーションを改善しています。


電気的特性 (Type B)

   Type A   Type B
 最大出力(ノンクリップ)  56 W   65 W 
 最大出力(歪率5%)  64 W   71 W 
 ゲイン (Closed)  24.3 dB  26.6 dB
 ゲイン (Open)  34.8 dB  48.2 dB
 高域カットオフ(-3dB)  110 KHz  100 KHz
 ダンピングファクター  20 (8Ω)  20.4 (8Ω)
 残留ノイズ  0.35 mV   0.3 mV 

ブートストラップによりKNFが無効となった分ゲイン上昇に伴いループ帰還量は21.6dB と大幅に増加していますが、得られるダンピングファクターは以前とほぼ同じです。

最大出力は以前より増えていますが、+B2電源の一部改良によるものでブートストラップがもたらしたものではありません。
ページの冒頭で紹介した規格表の動作例とほぼ同等のノンクリップ(歪率≒2.5%)で65Wが得られ、5%歪率では70W超えまでに達しました。
もちろんブートストラップ無し(Type A)に戻しても同様の最大出力が得られるハズです。

歪率は弱冠良くなっていますが劇的な変化ではありません。


■ 音質

ひとことで言うならば低域から高域まで端正で上品な音でしょうか。良くできた半導体アンプにも近い雰囲気を感じます。

ダンピングファクターはType A とほぼ変わらないのに何故かこちらのType B の方が Kailas 7 のダブルウーファーが軽く感じられ、ダンピングファクターが大きいような錯覚に陥ります。


■ 雑感

これまで拙作のCSPPアンプ群においてブートストラップは音質的に不利でしたが、本機では殆どそれを感じさせません。

どうせならブートストラップ有り無しを切り換えられるスイッチでも付けておいた方が両方楽しめて良さそうです。

ある日とある掲示板にて本機の周波数特性から発振の危険を案ずる指摘がありましたので位相特性の頁を纏めました。もちろんそんな危惧は無用です。

その後、回路はType Aに戻し、電源部はRev.1のままにしてType A の回路でも Type B と同じ最大出力が得られています。


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Last update 24-Dec-2018