MOS-FET CSPP Power Amp Experimental since Nov. 2003 |
第3弾 はMOS-FET 2SJ114 CSPP です。 今度はフラットな放熱器(1.8℃/W)にコの字型アルミチャンネルをベースにして組んでみました。
放熱器も大きいものを買うと結構値が張ります。今回のものは自然空冷では10W程度が良いところですが、アイドリング電流を増やすために強制空冷としました。
PチャンネルMOS-FETを採用したのはVDS-ID特性の定電流性がNチャンネルよりも悪いので僅かながらSITに近い音質傾向になるのではとの期待からで、
またJ18ユニットと同じく初段にK213を使っているので出力段のデバイス差が良くわかるのではとの目論見です。
もう一つは Super SIT 接続を製作する前に MOS-FET の音を確認しておく目的もあります。定電流回路も含めてシンプルなオールFET構成になっています。
■ 回路図 (2003/11/08)
出力段が MOS-FET だと温度補償も省略できるし、エンハンスドモードなのでSITに比べてバイアスも簡単に済みます。
パイロットランプ兼用のLED(緑)を基準電圧として定電流回路もシンプルに構成しています。初段は V-FET(SIT) の K79 でも試してみましたが、ゲインが不足するのと定電圧性のドライブではPPの対称性が崩れて2次歪みが大きくシングルアンプみたいにクリップ波形が非対称になってしまいます。
J114ドレイン側に入れた電流測定用0.47Ωは大きすぎる様にも見えますが、8Ω負荷ではこれをショートしても出力、ダンピングファクターとも殆ど変化はありません。
表から見えるのはヒートシンクとファンなので見た目につまらない。モールド型でもやっぱりデバイスは表に出すべきか。
しかしMOS-FETのゲート配線を延ばしたくなかったので基盤から直付けできるこの形になりました。それにしてもつまらない、見た目がつまらないと音までもつまらなく聞こえてきそうでなおさらです。
LED(緑)はファンの奥にかろうじて見えるが前2作に比べるとこれも存在感をスポイルしてしまう。
■ 基礎体力 (アイドリング電流 0.4A)
最大出力 40W ゲイン 25.1dB 高域カットオフ(-3dB) 280KHz ダンピングファクター 7.69(8Ω) 残留ノイズ 0.18mV 最大出力は前2作の中間です。
J114の Cis が大きい(1000PF)のでゲート・ソース間2.2K程度のドライブインピーダンスでどうなるか出たとこ勝負でしたが、高域カットオフ(-3dB)は280KHzと以外に延びました。
ゲインとダンピングファクターはアイドリングを増やせば上昇しますが、発熱との絡みで0.4Aにしました。
■ 音質傾向
冒頭にも書いたとおり、バイポーラTRよりはSITに近い音がするかも?との淡い期待は見事に外れました。
ほぼ同じゲインでアイドリング電流の低い2N3055ユニット(Ver.1)よりもダンピングファクターが低いことからも内部抵抗の高い素子であることが判ります。
良くも悪くも、半導体らしい音です。 大きな Cis の割に高域は華やかでパーカッションが前に出て来ます。
もっとアイドリング電流を増やせば少しは良くなるのかも知れませんが、たったの5石でここまで鳴れば充分としましょう。
■ 雑感
このユニットを作っているうちに中高生の頃に作ったICアンプを思い出しました。
当時のパワーICと言えばサンケンもありましたが、製作例を紹介していた東芝が自作派の主流でした。TH9013Pと言う名前で中身は混成(ハイブリッド)IC、セラミックの基盤に抵抗をプリントして当時のトランジスタをそのまま載せてパッケージした出力20Wのものでした。
外付け部品が必要でしたが、単電源でも動作出来る汎用性の高いものでした。でも、スピーカーが深呼吸する程ショックノイズが大きくて半導体アンプってこういうものなのかとビックリした記憶があります。その他オーディオ以外の用途にどれだけ使われたかは?ですがTH9015Pをギターアンプに使い簡単に作れて重宝したものでした。
音楽よりも自作が目的だった当時、音の悪さに気が付いたのは大分経ってからでしたが、ICのケースをこじ開けNFBのプリント抵抗を剥がしてNFB量を減らしたことを思い出します。SNは若干悪くなりましたが、大分マシな音になった記憶があります。
当時の安物半導体アンプはソリッド抵抗を多用していたので、電源を入れると”ザー”と言うのが普通でした。 直流安定度が悪く、ウーハーがふらふら動いていたのを妙に懐かしく思い出します。
このJ114ユニットならばパワーは40W、電源は3つ要りますが外付け部品が2個のトリマー程度で済むし、ショックノイズも出ないので当時こんなハイブリッドICがあったら面白かったかも知れません。今度は別の Pch MOS-FET で追試したいと思います。
2SJ117で実験 (2003/11/28) |
手持ちの Pch MOS−FET の中から先ずは2SJ117を試してみました。
チャンネル損失がJ114の100Wと比べてJ117は40Wと小振りであるために大出力は望めませんが、音質確認です。
■ 基礎体力 (アイドリング電流 0.35A)
最大出力 9W ゲイン 24.6dB 高域カットオフ(-3dB) 250KHz ダンピングファクター 4.59(8Ω) 残留ノイズ 0.16mV RDS(on) が7Ω(max) と大きいため最大出力は9Wと可愛いもんです。
規格表によれば Cis (520PF) がJ114より低いにも関わらず、高域カットオフは250KHzでした。
後で良く考えたら、この時点で既にソケットとプラグを11Pに変更して入力端子を電源ケースの背面に移動していた為にシールド線の容量が加わっていたのでした。以前と同じ条件ならもっと延びていたはず、でも200KHz以上は実用上必要ないので100KHz程度でも充分です。やはりこの石は本来高電圧で使うために開発されたものですのでオーディオアンプの出力段に使うのは少々場違いな感じです。
■ 音質傾向
J114と比べると半導体臭さが取れ、透明度も解像度も高くなり、聞き易い音質になりました。
小さいながらもなかなかの実力です。 これでもっとパワーが出れば文句は無いのだが...でも拙宅では十分な音量です。
最初から出力を望まなければなかなか使える石です。
2SJ116で実験 (2003/12/07) |
次はTO−3パッケージの2SJ116を試してみました。
こちらはチャンネル損失が125Wと大きくJ114よりも大出力が取れそうですが、RDS(on) が2.25Ω(max) とJ114の0.8Ω(max)より大きいため、電源電圧を上げたとしてもチャンネル損失が増えるのでたぶんJ114を上回る事は出来ないでしょう。
規格表によると耐圧がJ117と同じく400V、最大ドレイン電流が8AとJ117の2Aに比べると4倍なのでJ117を4パラにしたような感じです。
全てが4倍と言うわけではありませんが、恐らくJ117と同じ構造で4倍程度のチップサイズだと想像します。
番号が若いので逆にJ116を1/4にスケールダウンしたのがJ117だと考えるのが妥当です。
■ 回路変更
パッケージ形状の違いによりヒートシンク及びその取り付けが変わった為に基盤からの配線を延ばさざるを得ず、ゲート配線が3cm程度でも寄生発振が出てしまいましたので、ゲートに1KΩを直列に入れました。
■ 基礎体力 (アイドリング電流 0.4A)
最大出力 33W ゲイン 25.2dB 高域カットオフ(-3dB) 160KHz ダンピングファクター 10.0(8Ω) 残留ノイズ 0.18mV 最大出力、ゲイン共J18ユニットのアイドル0.25A時と同じです。 ダンピングファクターも10.0と充分な値を示しています。
J116の Cis (1200PF) がJ114よりもさらに大きいので高域カットオフは160KHzと下がりましたが、実用的には全然問題ありません。
この石は本来スイッチング用途ですが、出力を高望みしなければオーディオアンプでも充分使えます。
■ 音質傾向
J117と同じ傾向の音質でダンピングファクターが上がった為か、僅かながら重厚に聞こえます。
ただJ114がハズレだっただけなのか?
だとしてもこれが MOS-FET の音なのか判断はしかねますが、音量を上げていくとうるさく感じて長時間の鑑賞には疲れを感じます。
J18の音にはこの疲れがまるで無いし、2N3055は予想に反してけっこう疲れない音です。
2SJ116 Ver.2 (2004/09/26) |
パワー MOS-FET はゲート容量が災いしてそのままでは高域特性がバイポーラTRやSITに比べて充分に延びません。
バイポーラTRではダーリントン接続をして hfe を稼いでいますが、こちらも1段増やしてハンディを克服してやることにしました。
FETをダーリントン接続してもgmが増える訳ではない(インバーテッドダーリントンなら増大)のでソースフォロワーにしてドライブインピーダンスをグッと下げてやることにしました。2003年12月からもう既に10ヶ月ですが、MOS−FETの名誉挽回の為にやれることはやっておくべきと思い、久しぶりのリファインです。
■ 回路変更
ソースフォロワーには2SJ76と200Ωを追加しただけです。ドレインはそれぞれV1とV2の電源から直接供給される様に接続すればOKです。
2SJ76にはそれぞれ約620mWの発熱があるので放熱器に取り付けなければなりません。
■ 基礎体力 (アイドリング電流 0.3A)
最大出力 33W ゲイン 25.1dB 高域カットオフ(-3dB) 650KHz ダンピングファクター 7.5(8Ω) 残留ノイズ 0.18mV アイドリングを0.3Aに絞りましたが、ソースフォロワー段のVGSが加算される為、初段の電流は増えています。
アイドリングを減らした分ゲインが0.1dB下がり、ダンピングファクターも7.5と少し減りましたが、ソースフォロワーのおかげで高域カットオフはグンと上昇して650KHzとなりました。
■ 音質傾向
さて、ソースフォロワーの効果の程はどうでしょうか?
少しだけ高音域の堅さが和らいだ様です。半導体アンプでは100KHz以上の特性でもおろそかに出来ないようです。
なるべく高い周波数までレスポンスを確保することが音の良いアンプになるような気がします。
これでちょっとマシな音質になってくれました。(と言いながら実はビリ争いだったりして...(^^;)
2SJ116 Ver.3 (2005/01/10) |
Super SIT 接続では V-FET を MOS-FET にダーリントン接続しただけでその音質を V-FET の支配下に置けます。
今度はバイポーラTRをダーリントン接続をしてみることにしました。前回のリファインから3ヶ月ですが、MOS−FETのクセ?らしきモノを取るために最後の手段です。
■ 回路変更
ダーリントン接続はソースフォロワーの2SJ76を2SA1008に置き換え、コレクターとドレインを接続。
ソースフォロワーと同様約620mWの発熱があるので2SA1008には放熱対策が必須です。
■ 基礎体力 (アイドリング電流 0.3A)
最大出力 31W ゲイン 25.1dB 高域カットオフ(-3dB) 500KHz ダンピングファクター 7.4(8Ω) 残留ノイズ 0.18mV 出力と高域カットオフはちょっと下がりましたが、他はソースフォロワーと殆ど同じです。
■ 音質傾向
さて、ダーリントンの効果の程はどうでしょうか?
MOS−FETのクセとも言える硬さが感じられなくなり、安心して聴ける音になりました。
どうもこれまでのオールFETでの構成だと躍動感に乏しく、大人しいけど硬い印象でしたが、バイポーラTRの躍動感がMOS−FETのgmで拡大された様で、あたかもSuperSIT接続のような効果です。
オールFETに拘るよりもバイポーラTRを上手く取り入れた方が鑑賞に耐えるアンプとなりました。これで漸く2N3055ユニットと甲乙付け難い音質までに成長してくれました。
■ 雑感
最終的にMOS-FETの個性を殺してしまいましたが、聴感上は明らかに改善しました。
SIT や Super SIT には敵いませんが、バイポーラTR(2N3055)ユニットと勝負できるレベルになったと言えます。
当初MOS-FETがそんなにお粗末な音を出すとは思っていなかったので期待ハズレだったのですが、最後はバイポーラTRのダーリントン接続が有効となりました。バイポーラTRにはまだまだ使えるパワーTRがあるのでわざわざSuperSITの様にMOS−FETと組み合わせなくても好きな石が選べますが、パワー・バイポーラTRの欠点は温度補償が必要なところです。
その点終段MOS-FETにすれば温度補償の必要が無く、電源変動にも強いので設計製作が簡単で安定動作してくれます。終段バイポーラTRに比べるととてもラクチンですが、ゲート容量と寄生発振だけは気を付ける必要があります。MOS-FETアンプを生かすも殺すもゲート容量を如何にドライブするかで決まりそうな印象を受けました。
一時、MOS-FETには見切りを付けてにこのユニットを解体してしまおうかとも思いましたが、Ver.3にてバイポーラTRをダーリントン接続することにより、充分な高音質と安定動作を手に入れることが出来ました。
こんな簡単な回路でも数万円の市販アンプを軽く凌駕する音が出ますから、初心者の方にも安心して薦められます。
ユニット式にしなくてもV1とV2の30V程度の電源をRLで計4つ用意し、V1nは倍電圧でもいいし、小容量の別電源を用意して左右共通とすることも出来ます。本機では2SJxxxのP−chタイプを使いましたが、もちろん回路全体をコンプリ返してしまえば2SKxxxのN−chタイプでも同様に製作可能です。オーディオアンプやモーター制御系以外でのアプリケーションではその電源極性から2SJタイプは敬遠されがちですので、市場では安く出回っています。以外に使える良質なパワーMOS-FETが見つかるかも知れません。
Last update 10-Jan-2005